十文字掌編小説ぶろぐ

べんべんとした日常に豊かな物語を。短くたって構わない。豊かなものでさえあれば。 不定期の更新です。月3回を目標に。

カテゴリー "フェーブル" の記事

『ウワバミロボット』

ある小さな村に、それはそれは恐ろしい大蛇がいました。
しかし、誰もその大蛇の姿を見たことがありませんでした。それもそのはず、その大蛇を見たものは皆、ぱくっと飲み込まれてしまっているのです。血痕や叫び声すら残りません。なので大蛇が通った後には、車一台分ほどの這った跡しかありませんでした。

そこで一人の猟師が大蛇退治に名乗りを上げました。そして猟師は夜中、一人で大蛇がよく現れる森の中へと向かいました。

すると早速雑木林の影に、月明かりに反射した大蛇の尾を見つけました。眠っているのでしょうか。まだ、大蛇のほうは猟師に気づいていません。
猟師は気づかれないように、ゆっくりと忍び寄ります。

だんだんと近づくに連れ、その大蛇の全貌が見えてきました。

「なんだ、これは」

何度も目をこする猟師。その目の前にいた大蛇の身体は、銀色の金属で覆われていました。

恐る恐る猟師は大蛇の身体に触れます。本物の鉄、それはまるで死んでいるかのように冷たいものでした。
すると、どこからともなく声が聞こえてきました。

「今度は何の用だ?」

その声に驚き、猟師は腰を抜かしてしまいました。しかし、すぐに答えます。

「お前が、人を襲うウワバミか!」

「いかにも。しかし、ワシは人を襲ったつもりはない。ただ、空腹を満たすために目の前にいた人間を熟したにすぎない」

「うるさい! バケモノめ!」と猟師は握りしめていた猟銃を構え、大蛇に向かって放ちました。
しかし、金属の身体を持つ大蛇には、全く猟銃の弾は効果がありません。

「ワシに楯突こうとする人間は初めてだ。皆、ワシの姿に驚いて、半べそをかいている奴らばかりだったからな」

猟師も使い物にならなくなった猟銃を投げ捨て、地べたに這いずりながら後ずさりをします。

「お、お前は、どうしてそんな身体をしているんだ?」

すると大蛇は答えます。

「ワシは人間に作られたのだ」

「人間?」

「そうだ。ただワシは未完成のまま世に放たれた。身体の中も金属でできているせいか、いくら人間を熟しても、まったく満足できないのだ」

「それじゃ、まだ飲み込まれた人間たちは、まだお前の腹の中で生きているのか?」

「さあな。ただ、吐き出すわけにはいかん。ワシは人間を飲み込んでこそ、その存在意義を成していると実感できる。そう教えられている」

わずかな希望を抱いた猟師が、まだ腹の中にいる人間を助け出す良案を思いつきました。

「なら、その存在意義を満たしてやろう。その代わり、今まで飲み込んだ人間たちを吐き出してほしい」

「なに、それは本当か?」

「ああ、もちろん」

「わかった。なら明日までに用意しろ。ただもしできなければお前を食ってやるからな」


そして翌日、猟師は約束通りに大蛇の前にやってきました。

「持ってきたのか?」

大蛇の言葉に猟師は頷きます。

「これを飲め。ただその前に、腹の中の人間を出してもらわなくては困る。これを飲んでからでは、中の人間が死んでしまうかも知れないからな」

「よし、わかった。しかしもし、ワシが満足しないものだったら、お前もろとも村の人間すべてを飲み込んでやるからな」

大蛇はそう言って、大きな口から次々と人間を吐き出していきます。そしてすべてを出し終えると、猟師が用意したポリタンクをがぶがぶ飲み始めました。
その時でした。一瞬の隙を突いて、猟師が持っていた火種を大蛇の口の中めがけて投げ込みました。

「あ、アツい! アツい!」

大蛇は瞬く間に大きな火柱となりました。そう、大蛇が飲んだのは灯油でした。

「見たかバケモノめ! 溶けてしまえ!」

すると、大蛇は最期の力を振り絞ります。

「人間め、謀ったな! くそっ、こうなったら」

大蛇はその大きな身体を素早く回転させ、森の木々を炎で包み込みました。一度広がった炎はみるみるうちに人々が住む村まで襲い、村すべてを消化させてしまいました。

『鬼の居ぬ間に』

かの有名な鬼ヶ島。実はその島には、豊富な果実や透き通るよな川が流れているオアシスが存在するという噂がありました。
その噂を信じたとある老夫婦が、いつか訪れたいとその機会を虎視眈々と窺っていました。

するとある日、鬼ヶ島に住む鬼たちが長期間の旅行に出かけていきました。老夫婦はこの機会を逃しません。早速身支度を調え、鬼ヶ島に向かいます。

普段、鬼ヶ島に人が入ることはほとんどありません。なので、この老夫婦が初めてでした。

鬼ヶ島に足を踏み入れてからしばらく歩くと、すぐに噂のオアシスが見えてきました。するとおじいさんは用意してきた籠に果実を、おばあさんは持ってきた桶に川の水を汲み取り始めました。

二人が十分過ぎるほどの収穫を得た頃、二人以外誰もいないはずの島にドスドス足音が聞こえてきました。人のものではないことはすぐにわかります。見ると若い鬼が一人で島に戻ってきていました。

「あ~、やっぱり旅行なんかよりこの島でのんびりするほうが気が楽でいいや」

どうやらこの鬼は、一人旅行を抜け出して一足先早く帰ってきたようです。

老夫婦は急いで身を隠し、島から逃げ出す隙を窺います。しかしその鬼はちょうど出入り口付近に腰を下ろし、ちっとも動こうとしませんでした。

「どうしたのもかね、ばあさんや」

「そうだね、やつが鼻提灯でも見せてくれさえすれば、その横を忍び足で抜けられるんじゃが」

老夫婦は、鬼が疲れて寝てしまうのを息を潜めて待つことにしました。

しばらくすると、思惑通り鬼はいびきをかいて居眠りを始めました。

「今じゃ!」

おばあさんのかけ声とともに老夫婦は飛び出し、鬼の横を通り過ぎます。

「あっ」

と声を上げたのはおばあさん。おじいさんが振り返ると、おばあさんが躓いて抱えていた川の水を鬼にかけてしまっていました。

当然鬼は目を覚ましてしまいます。とっさにおじいさんは、持っていた果実を鬼に向かって投げつけました。

「鬼は外ぉー!」

果実はゆっくりと弧を描いて寝ぼけ眼の鬼に命中しました。

すると鬼は、怒るわけでもなく、諭すように言いました。

「あーあ、服が汚れちまった。洗濯しなきゃな」

『酔いどれヒグマと少年』

とあるサーカス団の一員に、少し変わった芸をするヒグマがいました。

そのヒグマの芸というのが、お酒を飲みながらボールに乗ってステージを回ると言うのです。ヒグマの人気は高く、劇団のエースでもありました。

そんなあるショーの後、ヒグマが寝床としている檻の中で、いつものように一升瓶を抱えながらくつろいでいると、一人の少年が迷い込んできました。

「あ、クマだ」

「ん? なんだお前。勝手には行ってきちゃダメだろう」

「寝る時もお酒飲んでるの?」

ヒグマの話を聞いていないのか、少年は訊いてきます。

「ああ、オレにとって酒は水みたいなもんだからな」

「お酒おいしい?」

「さあな」

その曖昧な返答に、少年は納得がいきません。

「わからないのに飲んでるの? じゃ、ショーの時に飲むのは何で?」

「ショーの時に飲んでいるのは団長の指示でもある。元々はオレは玉乗りなんて朝飯前だった。そんなある日、オレは水と間違えて酒を飲んでからショーに出た。初めてだったんでな、結構酔っ払っていた。それでも難なく乗りこなした。その姿がおかしかったんだろうな。観客にも好評で、団長はそれからも酔っ払った状態でショーに出るように言われたんだよ」

そう言うと、ヒグマは抱えていた一升瓶を口に運び、ごくごくと喉を鳴らしました。

「酔っ払うってどんな感じ?」

少年の素朴な疑問に、ヒグマは少し置いてから答えます。

「そうだな。夢見ている感じかな」

「ゆめ?」

「夢と言っても、寝ている時に見る夢のほうだ。自分で好きなように世界を作れる。自由の世界さ。ただ、たまに怖いものも見るがな」

「それじゃ、クマさんは夢を見るためにお酒を飲んでいるの?」

「最初はそうだったが、今は逆かな。夢を見せることをしている。お酒を飲むことが仕事の一部になると、好きだったものもそうでなくなってしまう。空しくもな」

ヒグマはそう言うと、空になった一升瓶を床に転がしました。すると丁度転がった一升瓶が、檻の外にいる少年の目の前まで転がっていきました。

少年はそれを何の躊躇いもなく拾い上げ、僅かに残っていた中身を自らの口の中に入れてしまいました。

「お、おい! お前にはまだ早いぞ」と慌ててヒグマは言いましたが、少年は頬を赤らめる訳でもなく、平然として言いました。

「ほんとうに、水みたいだね」

『烏兎そうそう』

とある満月の夜。一匹の兎がせっせとお団子のお餅をついていました。

するとそこに、颯爽と黒い羽根をばたつかせ三本の足を持った烏が現れました。

「おいおい、また性懲りもなく団子を作ってるのか?」

烏は高い木の梢から兎を見下ろして言います。

「ええ、これは私の大切な使命なんです。やらなければいけない理由もあるんですから」

烏はフンと鼻を鳴らして言い返します。

「まあ精々尽くすことだな。またオレ様に食べてもらえるようにな」

兎が満月の夜に餅をつき、お団子を作るようになったのはだいぶ昔のこと。それからしばらくして、どこからか噂を嗅ぎつけたのか三本足の烏が姿を現し、せっかく兎が作ったお団子をくすねて行くようになっていました。

動きの素早い烏です。兎が毎回対策を練るのですが、空を飛ぶ烏には手も足も出ませんでした。

そして今回も、烏は意気揚々と現れました。

「よし、これで完成だわ」

兎がお団子を作り終え一息つこうとしていると、それを見計らって烏がお団子めがけて飛び出しました。そしてあっさりとお団子を盗み取りました。

「どうだい。オレ様の速さは。お前も一歩も動けなかっただろ」

「……ええ、おはやいですわね」

まるで何事もなかったかのように動じない兎を見た烏は、はてと首を傾げます。

「なんだよ。いつものように怒ったりしないのか?」

「怒るなんて、はしたない。それに構わないのですよ。あなたにお団子を差し上げるために作っていたのですから」

「はあ、お前何言ってるんだ。オレ様のために作っていただと。どうしてそんなお人好しなことができるんだ」

「そうですね。もちろん、初めてあなたにお団子を取られてしまった時は、まあ驚きと悲しみに包まれました。ですが、あなたがお団子を取った理由を知ってからは、お餅をつくのも楽しみになっていましたの」

なぜか嬉しそうにそう話す兎を見て、烏はまさかと思い問い質した。

「もしかして俺が団子をくわえて飛んでいく後をつけていたのか?」

「ええ、あなたはとても遠くからでもとても目立ちますから、私の足でもついていけましたよ。……あなたの様子から、お子さんたちも元気に育っているようで安心しました」

そう。泥棒烏は、自分の子どもたちのためにお団子を盗んでいたのでした。

すると烏も普段の高飛車な態度をやめ、正直に話し出しました。

「最初はほんの出来心だった。息子たちの食料を探している時に、あんたがうまそうな団子を作っている所が見えて、盗み取った。持ち帰って息子たちに食わせてやると喜んでな、また食べたいって言い出すもんだから。毒を食らわば皿までって言うだろ。いまさら素直にあんたから頂くわけにもいかなかったんだ」

兎は小さく頷いてから言います。

「そうでしょう。あなたの性格は知ってましたから。お子さんのためには悪事でも犯す。だから、お互い様です」

「お互い様?」

烏は首を傾げます。

「毒を食らわば皿まで。実は私の作るお団子には微量の毒を入れていましたの」

「え……うそだろ」

「いいえ、本当です。毒をもって毒を制す、です」

真っ青な表情の烏に対して、兎は最後に一言付け加えた。

「しかし、まだ草々な気もします。そうそうな」

『窮鼠、臍を噛む』

とある町に人の言葉を話すネズミがいました。

そのネズミは言葉巧みに人々を魅了し、それを珍しがる人々はビスケットやパン屑などをそのネズミに与えていました。

そのネズミが人の言葉を話すのには、ある理由がありました。


それは数ヶ月前のことです。そのネズミが餓えを晴らすためにゴミ捨て場を漁っていると、一匹の野良猫と鉢合わせしてしまいました。

どうやら互いに飢えていた様子です。しかし身体の小さなネズミに勝ち目はありません。

するとそこに一人の少女が現れました。どうやら彼女も偶然その場に居合わせたようで、ネズミと野良猫の状況を把握するのに少し時間がかかっていました。

しかしすぐにネズミの危機を察すると、少女はネズミと野良猫の間に割って入り、野良猫に対して威嚇しました。

そうすると、自分よりも身体の大きい相手に怯えたのか、野良猫は慌てて踵を返していきました。

それを見送ると、少女はネズミに対して軽く微笑み、そしてそのままその場を立ち去ろうとしました。

ネズミは何とかして少女に感謝の気持ちを伝えようとしましたが、当時は人の言葉なんて話せるわけもなく、人とコミュニケーションを取ろうという考えすらなかったのですから、なかなか良い方法が思い浮かびません。

考えているうちに少女は、足早に歩いて行ってしまいます。

それを見て焦ってしまったネズミは、慌てて少女の後を追いかけ、そのままの勢いで少女の足首に噛みついてしまいました。

「いたっ!」と少女はその場で屈みこんでしまいます。

恩を仇で返すようなことをしてしまったネズミは青ざめますが、少女はネズミに対して怒ることもなくこう言いました。

「さっきの猫にそれぐらいの勢いで噛みついてごらん。あたしにできたんだから、あの猫にだってできるよ」

少女の瞳にうっすらと涙が浮かんでいるのを見たネズミは、とてもとても後悔しました。

それからネズミは人の言葉を覚え、いつか少女に感謝と謝罪をしたいと願い、今日も人の言葉を話すのでした。
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