十文字掌編小説ぶろぐ

べんべんとした日常に豊かな物語を。短くたって構わない。豊かなものでさえあれば。 不定期の更新です。月3回を目標に。

『正義とアルカナ』

ある日、古くからの付き合いのある女祭司の計らいで、アルカナとおばあちゃんは女王様の住むお城へと招かれた。

お城では小規模の会食が催されていた。

小規模といっても、著名な人物や名だたる富豪など出席している。その人々は皆、きらびやかな星を纏っているかのように眩しかった。

見たことのない料理や飾り、ファンタジーの世界に紛れ込んだ気分になったアルカナは、いったいどう振る舞えば良いのかわからなくなっていた。

すると、一緒に同行してきた女祭司が言った。

「大丈夫よ。普段通りにしていれば」

その言葉に頷きはするが、背筋を緩めることを許してはくれない雰囲気が、アルカナをいっそうのこと困惑させた。

どうやらアルカナの噂は、会食に出席した人のほとんどが知っているようだった。以前、女王様の依頼を解決したからかもしれない。今回の招待もそれに由縁しているのだろう。それにアルカナは女王様から頂いた月桂冠のお礼も直接したかった。

しかし、いくら会場を見渡しても、女王様の姿が見当たらない。

お城での会食は王国の主催だが、毎月行っている恒例の行事でもあるため、必ずしも女王様が出席するとは限らないらしい。

アルカナがキョロキョロと会場内を見回していると、気品漂う女性が音も無く目の前に現れた。

「ごきげんよう、お嬢さん」

「こ、こんばんは」

鼻の奥を差すような香りがアルカナを襲ったが、なるべく表情に出さないように努めた。

「お嬢さんはお一人?」

ちょうど、一緒に来たおばあちゃんは、女祭司に連れられて遠くのテーブルにいた。

「ええ、そうよ」

大人の雰囲気に当てられたのか、少し嘘をついた。

「そう。それなら少し私のゲームに付き合ってもらえるかしら」

「ゲーム?」

「ええ。あなたはどちらが正しいかを答えるだけよ」

「それなら、構わないけど」

「そう。ありがと」

それから女性は、語りなれた口調で続けた。

「とある王国と、その王国と隣接する王国が合併することになった。そこでどちらかの王がその地位を退かなくてはならなくなった。ひとつの王国は王様が。もう一つの王国は女王様が支配していた。
王様は貧困で苦しむ国民に救済をしている。一転、女王様は罪を犯す犯罪者を取り締まっている。どちらの王も、それに関しては完璧な活動と言える。
さて、この二人の王。どちらが新しい国の王に相応しいのか。ただし、どちらも相応しいというのは、答えとして幼稚」

その問いに、アルカナは言い淀むことなく答えた。

「答えは、後者ね。つまり女王様」

その返答に、女性は不器用に微笑んだ。どうやら、アルカナの答えは彼女の想像を超えていたようだった。

「やっぱりおもしろい子ね。それじゃその理由を聞こうかしら」

「簡単なことよ。貧困で苦しむ人は、罪を犯す人によって生まれてしまう。窃盗とかね。だから、罪を犯す人を取り締まれば、自ずと貧困で苦しむ人も減るわ」

すると今度は綺麗な微笑みを女性は見せた。

「なるほどね。でもそれは間違ってはいないけれど、正解ではないわ」

いったいどういうことなのか。アルカナが首を傾げると、突然女性の顔が近づいてきて、耳元で囁かれた。

「正解は女王様だけど、その理由は違う。……ただ、美しいからよ。美しいものを人は崇め讃えるものよ」

そう言い残し、女性は賑わう人混みの中に姿を消した。

アルカナは思わず顔を歪めた。彼女の香水のせいもあったが、それ以上にゲーム負けた気がして悔しかった。

もう一度会って、その悔しさを晴らしたいと思い、アルカナは瞑想する。

しかし、いくら捜しても先程の女性が見つからない。

幻影やまやかしではないはず。確かにそこにいたのに。

アルカナが自宅に戻り、暖炉の上に置かれた写真立ての中に先程の女性に似た人物を見つけた。そして、思わず声が漏れた。

「美しいは正義……ね」
スポンサーサイト
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。