十文字掌編小説ぶろぐ

べんべんとした日常に豊かな物語を。短くたって構わない。豊かなものでさえあれば。 不定期の更新です。月3回を目標に。

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『スイカの嫌いな彼』

彼の好き嫌いの多さは、むだ毛の数を優に超えるほどだった。

運動するのは嫌。

一人で買い物するのは嫌。

ニュース番組はつまらないから嫌。

他にもたくさんあるのだが、一番苛立つのは食事に関してだ。

外食したりお弁当を買ってきたりした時に、自分の嫌いな食べ物が入っていれば口にすることは絶対にない。

ある蒸し暑い日。農家の実家からスイカが送られてきた。幼い頃から食べ慣れているスイカは、私の大好物でもあった。彼が嫌いだと初めから知っていたら、一人でこっそり食べていたのに。

それを知らなかった私は気をつかい、食べやすいように切り分け皿に盛る。そして彼のところに持っていくと、そのスイカを見た瞬間、彼の表情があからさまに嫌悪感を表した。

「あ、もしかしてダメだった?」

「うん。昔からスイカは嫌いだ」

自分が好きなものをはっきり“嫌いだ”と言われると、自分自身に言われたみたいで少し傷つく。しかし、それでも好きなものはとことん好きという彼の性格に、私たちはまだ繋がっていられた。

「どうしてダメなの?」

理由を聞くと、彼はすねたように答えた。

「タネを取るのが面倒だから。たくさんあるし、手も汚れる。口の中に入ってしまえば、気持ち悪いことこの上ない」

味ではなくタネが取るのが面倒とは。

「それじゃ、柿やサクランボもダメなの?」

「スイカよりはマシ。でも、嫌いだね」

柿もサクランボも私の好物だった。

彼の“嫌いだ”という言葉を聞く度に、私の中で癪の種が山のように積もっていた。

そして、気づいた時には彼の股間めがけて足を思いっきり振り上げていた。

悶絶する彼に対して、私は言った。

「私も嫌いになりそうだわ。タネのあるもの」

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