十文字掌編小説ぶろぐ

べんべんとした日常に豊かな物語を。短くたって構わない。豊かなものでさえあれば。 不定期の更新です。月3回を目標に。

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『独り法師な彼』

彼はとても愛情深い人だった。

女性にはもちろん、家族や友人、動物にさえ最大限の愛情を注ぐ。

いつだったか、私は彼に聞いたことがある。

「もしかして、あなたはさみしがり屋なの?」

意地悪な質問だったかもしれない。端から見ていると、彼は常に誰かと一緒にいる。家族、友人、恋人、愛犬。独りでいる姿を見たことがなかった。

しかし、彼は全くうろたえることもなく答えた。

「いいや、そんなことはないよ。むしろ僕は孤独を愛している。静かな空間に浸っている時は、自分の鼓動しか聞こえない。生きていることを実感できる」

「それじゃ、普段は無理してるの?」

「それも違う。人は大好きだ。誰かを幸せにすることは、僕の生きがいでもある」

「それって、矛盾してない?」

「そんなことはない。愛するものの対象は、この世の万物に及ぶことを許してくれる」

そう語る彼は、とても生き生きとしていた。

当時の私にとって、彼の発言は理解に苦しむものだった。


そして、私は久しぶりに彼に会うことにした。

彼と会うのは三ヶ月ぶり。

彼のアパートまで出向き、ベルを鳴らす。

応答はない。ドアノブを引くと、力なく扉は開いた。

玄関には大きな姿見。よく見ると廊下の壁の至る所に鏡は飾られていた。

恐る恐る部屋の奥へと進むと、薄日の差す窓際に彼は鎮座していた。

声をかけようとしたが、私は彼の生き生きとした表情を見て思いとどまった。

彼は恐ろしいほどに孤独に溺れていた。
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