十文字掌編小説ぶろぐ

べんべんとした日常に豊かな物語を。短くたって構わない。豊かなものでさえあれば。 不定期の更新です。月3回を目標に。

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『烏兎そうそう』

とある満月の夜。一匹の兎がせっせとお団子のお餅をついていました。

するとそこに、颯爽と黒い羽根をばたつかせ三本の足を持った烏が現れました。

「おいおい、また性懲りもなく団子を作ってるのか?」

烏は高い木の梢から兎を見下ろして言います。

「ええ、これは私の大切な使命なんです。やらなければいけない理由もあるんですから」

烏はフンと鼻を鳴らして言い返します。

「まあ精々尽くすことだな。またオレ様に食べてもらえるようにな」

兎が満月の夜に餅をつき、お団子を作るようになったのはだいぶ昔のこと。それからしばらくして、どこからか噂を嗅ぎつけたのか三本足の烏が姿を現し、せっかく兎が作ったお団子をくすねて行くようになっていました。

動きの素早い烏です。兎が毎回対策を練るのですが、空を飛ぶ烏には手も足も出ませんでした。

そして今回も、烏は意気揚々と現れました。

「よし、これで完成だわ」

兎がお団子を作り終え一息つこうとしていると、それを見計らって烏がお団子めがけて飛び出しました。そしてあっさりとお団子を盗み取りました。

「どうだい。オレ様の速さは。お前も一歩も動けなかっただろ」

「……ええ、おはやいですわね」

まるで何事もなかったかのように動じない兎を見た烏は、はてと首を傾げます。

「なんだよ。いつものように怒ったりしないのか?」

「怒るなんて、はしたない。それに構わないのですよ。あなたにお団子を差し上げるために作っていたのですから」

「はあ、お前何言ってるんだ。オレ様のために作っていただと。どうしてそんなお人好しなことができるんだ」

「そうですね。もちろん、初めてあなたにお団子を取られてしまった時は、まあ驚きと悲しみに包まれました。ですが、あなたがお団子を取った理由を知ってからは、お餅をつくのも楽しみになっていましたの」

なぜか嬉しそうにそう話す兎を見て、烏はまさかと思い問い質した。

「もしかして俺が団子をくわえて飛んでいく後をつけていたのか?」

「ええ、あなたはとても遠くからでもとても目立ちますから、私の足でもついていけましたよ。……あなたの様子から、お子さんたちも元気に育っているようで安心しました」

そう。泥棒烏は、自分の子どもたちのためにお団子を盗んでいたのでした。

すると烏も普段の高飛車な態度をやめ、正直に話し出しました。

「最初はほんの出来心だった。息子たちの食料を探している時に、あんたがうまそうな団子を作っている所が見えて、盗み取った。持ち帰って息子たちに食わせてやると喜んでな、また食べたいって言い出すもんだから。毒を食らわば皿までって言うだろ。いまさら素直にあんたから頂くわけにもいかなかったんだ」

兎は小さく頷いてから言います。

「そうでしょう。あなたの性格は知ってましたから。お子さんのためには悪事でも犯す。だから、お互い様です」

「お互い様?」

烏は首を傾げます。

「毒を食らわば皿まで。実は私の作るお団子には微量の毒を入れていましたの」

「え……うそだろ」

「いいえ、本当です。毒をもって毒を制す、です」

真っ青な表情の烏に対して、兎は最後に一言付け加えた。

「しかし、まだ草々な気もします。そうそうな」
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