十文字掌編小説ぶろぐ

べんべんとした日常に豊かな物語を。短くたって構わない。豊かなものでさえあれば。 不定期の更新です。月3回を目標に。

『無常風』

僕が小学三年生のころの話。


僕が通う塾から自宅まで自転車で帰る道の途中に、歩行者しか通り抜けられないほどの小さな踏切があった。警報器や遮断機のないその踏切には、バイクなどが入らないように両側の出入り口にポールが立っているだけで自転車は降りれば通れる道だったので、僕は毎日のように利用していた。

その日もいつものように夕暮れ空の下、自転車でその踏切まで来た時にタイミング悪く自転車のチェーンが外れてしまった。僕は自転車を道の端に止めてチェーンを直していると、ふと踏切の向こう側に誰かがいる気配を感じ見ると、自分よりも小さな背丈の女の子が立っているのが見えた。

ランドセルを背負い、こちらをじっと見つめている。踏切を渡るのが怖いのだろうか。僕は手を止めて電車が来ていないか確認すると、まだまだ、電車がやってくる気配はない。後から来る友達でも待っているのかも知れないと思い、僕は再び自転車に注目する。

すると遠くから電車の警笛が聞こえてきた。この警笛が聞こえてくると数秒後には電車がこの踏切を通過する。今チェーンが直ってもすぐには渡れない。しばらく電車を待たなければいけないなと思っていると、女の子の声で「ママー!」という叫び声が耳に入ってきた。



僕は顔を上げた。


それと同時に目の前を、大きな鉄の塊が突風とともに通過する。


女の子の声はその突風にかき消され、今は烈しい車輪の音すら聞こえない。



電車が通り過ぎた後、踏切の向こう側には誰もいなくなっていた。背中を刺すような悪寒に襲われた僕は、チェーンが外れたままの自転車を押して、すぐに踏切を渡りその場から去った。

翌日の朝会で、校長先生の口から昨日の踏切事故により、一人の児童が亡くなったと告げられた。亡くなったのは小学三年生の男子児童らしい。
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