十文字掌編小説ぶろぐ

べんべんとした日常に豊かな物語を。短くたって構わない。豊かなものでさえあれば。 不定期の更新です。月3回を目標に。

『力とアルカナ』

アルカナには両親がいない。

母は、まだアルカナに物心が付く前に事故でなくなった。だからアルカナに母の記憶はほとんどないに等しい。

しかし、父の記憶はある。

父は母が亡くなってすぐに家を出て行った。アルカナが幼い頃は時々顔を見せては、おばあちゃんと口論になる。

そしてアルカナが7歳を迎える頃から父は姿を見せなくなった。

アルカナが力を使って父を捜そうとしたことは一度もなかった。それはおばあちゃんに止められていたからというのが一番だった。

おばあちゃんがアルカナの不思議な力に気づいた時に真っ先に言ったのだ。

「あの父親のことだけは探してはダメ。あなたが不幸になるから」と。

父のことが全く気にならないといえば嘘になる。しかし、おばあちゃんを不安にさせることもできなかった。

アルカナに亡くなった人を捜すことはできない。母の存在を寂しく思い力を使ったこともあったが、どこにも見つからなかった。もし父を捜そうと力を使い、見つけ出すことができなければ、という恐怖もある。また、例え見つけ出したとしても、現在の父の姿に心痛める可能性も否定できない。

おばあちゃんが心配しているのは恐らくその二点。

そんな心配をよそに、とか。その目を盗んで、とか。アルカナ自身に好奇心という怪物が潜んでいれば、後先考えずに行動に出ていたかもしれない。

しかし、その怪物を抑えているのはアルカナの力ではない。おばあちゃんの愛情であった。

おばあちゃんが自分の孫に対して本当の名ではなく、愛称である“アルカナ”と呼ぶ理由。それは父がアルカナの本当の名の名付け親だから。

愛称とは、その字の通り、愛のある呼び方。愛の無い名前をおばあちゃんは嫌い、多くの人に愛された名前“アルカナ”を愛しているのだ。

それをアルカナは感じていた。自分自身でも、本当の名は記憶から消し去っている。

もう、アルカナに両親は必要ない。

愛してくれているおばあちゃんと、この名前があれば、それだけでいい。
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