十文字掌編小説ぶろぐ

べんべんとした日常に豊かな物語を。短くたって構わない。豊かなものでさえあれば。 不定期の更新です。月3回を目標に。

『戦車とアルカナ』

アルカナの不思議な力はもはや、国中に知られる存在となりつつあった。

依頼を受け、捜し物を見つける。

最初は善意で行っていた。依頼人も町の住民がほとんどで、アルカナの顔見知りやおばあちゃんの古くからの付き合いがある人物だったりした。なので、依頼の報酬は受け取っていない。ただ、依頼主によっては、お礼の品を送ってきたり食事をごちそうしてくれたり、はたまたお金を置いていく者もいた。

ギブアンドテイク。近くに住んでいる住民だからこそ、アルカナも快く協力していた。

しかし、いつしか顔も性格も知らない人からの依頼も届き、報酬の代わりに請け負うようになった。その忙しさに以前のようなおばあちゃんと二人で静かな暮らしが出来なくなっていたのだった。

そして依頼の数も増え、依頼の優先順位を内容や報酬のクラスで判断している。商売をしているわけではない。それはわかっていても、本心では自分の不思議な力が便宜にはかられているように思えて仕方なかった。

そんなアルカナを見かねてか、おばあちゃんが優しく声をかけてきた。

「アルカナ。『おもちゃの戦車』というお話を知っているかい?」

「ううん。初めて聞いたわ」

「それじゃ、少し聞いてちょうだい」

おばあちゃんは、手元に本があるわけでもなく、自分の記憶から反芻するかのように、『おもちゃの戦車』という名の物語を語り出した。



とある戦渦の中、一人の兵隊が幼い少女と出会った。辺りに両親はおらず、どうやらその子は戦争孤児であった。
戦争に関係のない孤児を守ることも兵隊の大切な役目。その兵隊は少女を保護し、安全なシェルターまで連れて行くことにした。その道中、少女は兵隊にあるお願いをした。
「あの車に乗りたい」
少女の言う車とは戦車のことだった。もちろん兵隊以外の人間が戦車に乗ることは規則違反である。しかし、その兵隊は快く少女の願いを受け入れ、戦車に乗せてあげた。すると少女は更に車を動かして欲しいと願い出た。
それをこれまた兵隊は快く受け入れ、戦車を動かしてしまった。
すると少女は少し興奮したのか、今度は戦車の弾を撃って欲しいと願い出た。
さすがにそれは出来ない。だがしかし、少女を悲しませたくはない。そこで兵隊は少女に言った。
「ごめんね。実はこの車はおもちゃなんだ。だから、弾は撃てないんだよ」
「でも、これと同じような車が弾を撃っているのを見たことがあるわ」
「それは、ロボットだ。確かにロボットなら弾は撃てるけど、このおもちゃでは撃てない」
「それじゃ、意味がないじゃない」
少女の言葉に兵隊はかぶりを振る。
「違うんだ。このおもちゃの車は君みたいな弱い人々を危険から遠ざけるために、本物のロボットと似せて作ってあるんだ。君たちを怖がらせることにはなるけど、この車を見たら人々は驚いて逃げていくだろ。おもちゃにもそんな大切な役割があるんだよ」
少女は少し不満そうな表情をしたが、それ以上兵隊に何かを願い出ることはなかった。
そして別れ際、兵隊は少女に告げた。
「いいかい。ロボットは人間が便宜をはかるために使う道具だけど、本来おもちゃは人間が楽しむための遊具なんだ。だからこんなとこにあってはいけない」
それを最後に兵隊は少女の側から離れた。そして、おもちゃの戦車で戦渦の中へと戻っていった。



話を終えると、おばあちゃんはアルカナに向かって手のひらサイズのおもちゃを手渡した。

「これはその時、兵隊さんが渡してきたのよ」

それはブリキでできたおもちゃの戦車だった。当然、弾など撃てはしない。

「アルカナ、あなたはおもちゃになりなさい。ロボットではなく、人々を楽しませるおもちゃに。そうすれば、今あなたが考えている悩みもどうでもよくなっちゃうわよ」

おばあちゃんはそう言って、アルカナの頭を優しく撫でた。
スポンサーサイト
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。