十文字掌編小説ぶろぐ

べんべんとした日常に豊かな物語を。短くたって構わない。豊かなものでさえあれば。 不定期の更新です。月3回を目標に。

『夢枕に立つ彼』

彼が亡くなって一年が経つ。

この一年間はずっと彼のことが頭から離れなかった。

それも、彼が毎日ではないが定期的に私の夢枕に立つからだ。

私が生活の中でストレスや悲しみで苦しんでいる時。今後の進路で悩んでいる時。そして独り寂しくいる時。

決まって彼は夢枕に立つ。

私の深層心理が彼を見せているのだろうけど、彼は目の前に現れるだけで、何も言葉をかけてくれない。こっちが話しかけても、小さく微笑むだけで首を動かすこともしない。

見守ってくれている。

そう思うように努めた私は、彼の存在を忘れることなく、まるで今でも彼がこの世で生きているように生活してきた。

そして今日。彼の命日の夜に、彼は私の夢枕に立った。

「今日で、一年だね」

私は声をかける。彼はいつものように微笑むだけ。かと思ったが、今日は初めて彼が言葉を発した。

「そうだね」

意表を突かれた私は、次の言葉がすぐには出てこなかった。すると彼のほうから口を開いた。

「今日は君に、言っておきたいことがあって」

なに?
どうして急に話すようになったの?
今まで何も答えてくれなかったのに。

言いたいことは山ほどあるのに、なぜか声として出ない。そんな私をよそに彼は続ける。

「僕が死んでから君のことを、ずっと見てきた。僕のことを、君が忘れてしまわないか、それがずっと不安だった」

忘れるわけがない。
だからこうして夢枕に立ってるんじゃない。

「でも、その不安ももう必要、ないみたいだ」

え、それじゃ……。

「今日で君に会いに来るのは、最後にしようと思う」

だめ。あなたは、私の心の支えなの。

「過去の思い出は時々、思い出すぐらいが丁度いい。でも未来の思い出は常に、思い描いていなくてはいけない。僕は、そう思うんだ」

そんなこと言われても、あなたのいない未来なんて……。

「想像、できるよ。マッチ売りの少女だろ。君は」

え?

「燃えさかる炎の中、想像したんだろう。僕の、いない未来を」

忘れていたあの日のことが、少しずつ蘇ってきた。

陽の明かりの届かない真夜中。私の隣で彼は眠っていた。
私は彼との決別を望んでいた。彼のことを嫌いになったわけではない。むしろ大好きだった。しかし、彼よりももっと好きな人が出来てしまった。
彼は私のことを心から愛していた。それを知っていたから、単純に別れを切り出したところで、彼が素直に頷いてくれるはずはなかった。
何度も考えた。彼と別れる一番の方法を。
そして最終的にとった行動は、火の明かりで彼を想像の世界へ誘うことだった。

「想像の世界は自分の、意のままになる。だけど、その意は正直だ。僕が今日まで一言も話せなかったのは、君は心の奥底で、僕から何を言われるのかを恐れていたからだ」

「……ごめんなさい」

ようやく声が出た。すると最期に彼は言った。

「マッチ売りの少女は想像の中で眠る。少女は幸せだった。想像することで、孤独から解放されたんだから。死ぬことよりも、永遠の孤独の方が恐ろしいんだ」
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