十文字掌編小説ぶろぐ

べんべんとした日常に豊かな物語を。短くたって構わない。豊かなものでさえあれば。 不定期の更新です。月3回を目標に。

『ほりくずす』

「俺の彼女がCMに出るらしい」

「へえCM、すごいじゃん」

「まあでも、ちょい役らしいよ。某回転寿司のやつで、美味しいって一言いってるらしいんだけど」

「それでもすごいって。女優目指してるだろ、彼女」

「そう。応援してやりたい気持ちもあるんだけどさ……」

「自分が惨めに思えてくるって?」

「ああ。一度は俺も目指した世界だからな」

「そうだよな。お前らは養成所で出会ったんだもんな。今や彼女は女優への階段を上っていて、お前はしがないバイトリーダー」

「言ってくれるな。ただ、俺は彼女を信じている。それが出来なくなったら終演だろ」

「次第に忙しくなり、二人で会える時間が少なくなっていく。すれ違い、言い争いが増え、そして二人の恋物語はエンドロールへ」

「やめろやめろ。いくらお前が脚本家を目指しているからって、俺の人生を勝手に描くな」

「悪いな、しかし今のお前の人生、ありきたりすぎて描くには少し物足りない」

「物足りないって、事実は小説よりも奇なりって言うだろ。これから俺もお前も驚くような人生が待っているかもしれない」

「……まあそうだな。ただ、それにはオレサマが加わる必要があるだろ」

「なんだよ、それ。急に態度変えやがって」

「なあに、お前を主人公にして、オレサマが語り手となり、今までにない恋物語を紡いでみせるよ」

「変に自信があるんだな」

「お前もそのうち気づくさ。己の中の眠った本能に」
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