十文字掌編小説ぶろぐ

べんべんとした日常に豊かな物語を。短くたって構わない。豊かなものでさえあれば。 不定期の更新です。月3回を目標に。

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『窮鼠、臍を噛む』

とある町に人の言葉を話すネズミがいました。

そのネズミは言葉巧みに人々を魅了し、それを珍しがる人々はビスケットやパン屑などをそのネズミに与えていました。

そのネズミが人の言葉を話すのには、ある理由がありました。


それは数ヶ月前のことです。そのネズミが餓えを晴らすためにゴミ捨て場を漁っていると、一匹の野良猫と鉢合わせしてしまいました。

どうやら互いに飢えていた様子です。しかし身体の小さなネズミに勝ち目はありません。

するとそこに一人の少女が現れました。どうやら彼女も偶然その場に居合わせたようで、ネズミと野良猫の状況を把握するのに少し時間がかかっていました。

しかしすぐにネズミの危機を察すると、少女はネズミと野良猫の間に割って入り、野良猫に対して威嚇しました。

そうすると、自分よりも身体の大きい相手に怯えたのか、野良猫は慌てて踵を返していきました。

それを見送ると、少女はネズミに対して軽く微笑み、そしてそのままその場を立ち去ろうとしました。

ネズミは何とかして少女に感謝の気持ちを伝えようとしましたが、当時は人の言葉なんて話せるわけもなく、人とコミュニケーションを取ろうという考えすらなかったのですから、なかなか良い方法が思い浮かびません。

考えているうちに少女は、足早に歩いて行ってしまいます。

それを見て焦ってしまったネズミは、慌てて少女の後を追いかけ、そのままの勢いで少女の足首に噛みついてしまいました。

「いたっ!」と少女はその場で屈みこんでしまいます。

恩を仇で返すようなことをしてしまったネズミは青ざめますが、少女はネズミに対して怒ることもなくこう言いました。

「さっきの猫にそれぐらいの勢いで噛みついてごらん。あたしにできたんだから、あの猫にだってできるよ」

少女の瞳にうっすらと涙が浮かんでいるのを見たネズミは、とてもとても後悔しました。

それからネズミは人の言葉を覚え、いつか少女に感謝と謝罪をしたいと願い、今日も人の言葉を話すのでした。
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