十文字掌編小説ぶろぐ

べんべんとした日常に豊かな物語を。短くたって構わない。豊かなものでさえあれば。 不定期の更新です。月3回を目標に。

『女帝とアルカナ』

ある身も凍るような寒い夜。アルカナは13歳の誕生日を迎えていた。

おばあちゃんが買ってきてくれた誕生日ケーキを頬張っていると、アルカナ宛てに一通の郵便が届いた。

差し出し人は協会の女祭司だった。

《ごきげんよう、アルカナ様。
最近は肌寒い日々が続いておりますが、お風邪でも引かれてはいませんでしょうか。身体にはじゅうぶんにお気をつけて下さいませ。
さて、この度は急なお手紙、大変失礼致します。実は、私のある知人のお願いを、アルカナ様に聞いてもらいたいと思い、筆をとらせて頂きました。
そのお願いというのは、知人の亡くなった父親の遺品である冠を捜して欲しいとのことです。ただ、それがどのような冠なのか私にもその知人にもわからないのです。わかるのは、その冠はとても名誉ある代物で、生前その友人のお父様が命よりも大切にしていたものであるということなのです。
このようなお願いをお手紙という形になってしまったのも、その知人も私も今とても忙しい身であります故、どうかお許しください。
もちろん、お礼も用意してあるそうです。私からも、協会に再びいらして下さった際に、ご用意しておきますので、吉報をお待ちしております。
オネスト協会 祭司マリア》

手紙とともに、一枚の写真が同封されていた。

その写真には女祭司と一緒に微笑む貴婦人が映っていた。アルカナはその顔に見覚えがなかったが、写真を見たおばあちゃんは驚いて腰を抜かした。

「そ、その方は国の女王さまですよ」

「女王さま?」

アルカナにとって女王様という存在は、空想上の動物と似ていて、おとぎ話のような世界の存在であった。それ故、この女祭司と一緒に映っている人物が女王様と聞いても、別段驚くこともなかった。

しかし、何かに操られたかのようにアルカナは「あるかな?」と小さく呟き瞑想をしていた。

「どうしたのアルカナ?」

おばあちゃんの声が聞こえていないのか、アルカナは目を閉じたまま。すると「あったよ」と突然声を出しておばあちゃんに向き直った。

「おばあちゃん、何か書くものを用意して」

言われたとおり羽根ペンと紙を用意したおばあちゃんは、アルカナのその様子を側で興味深そうに眺めていた。アルカナはペンを走らせ納得したかのように頷くと、その手紙を封筒に入れおばあちゃんに渡した。

「これを王宮に届けて欲しいの」

おばあちゃんは不思議そうにその封筒を見つめてから「わかったわ」と快く微笑み出かけていった。

数日後、アルカナの元に王国からの遣いと名乗る男がやってきた。

「アルカナ様ですね。私は女王様に遣える名をサンチェスと申します。この度は女王の願いを叶えて下さった御礼とその褒美を与えたく存じまして参りました次第でございます。女王はあなたにとても感謝しておられます。褒美というのも、アルカナ様の欲しいものなら何でも差し上げる用意はできております」

「それはわざわざご苦労様です。しかし、悪いのですがお断りしますわ」

「それは、どうしてですか?」

「あたしが欲しいものは、今のあたしが知らないものや話よ。でもね、それもこれも欲望のままに求めてはいけない気がするの。欲しいからといって自ら求めるんじゃなくて、自然と舞い込んできたものをあたしは受け入れることにしてるのよ。だから、何か欲しいものがあると訊かれても答えられないわ」

「……そうですか。では、こちらが勝手に差し上げる物であれば受け取ってもらえるのですね?」

「ええ、もちろんよ」

王国の遣いが帰った翌日、アルカナの住む家に高価な箱に入れられた月桂冠が届いた。それをさっそくアルカナは自分の頭に乗せてみせた。

「どう? おばあちゃん。似合う?」

「ええ、とっても。まるで女王様ね」

「ありがとう」とアルカナはおばあちゃんに心から感謝した。

その月桂冠はアルカナにとって、とてもとても大切な誕生日プレゼントとなった。

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