十文字掌編小説ぶろぐ

べんべんとした日常に豊かな物語を。短くたって構わない。豊かなものでさえあれば。 不定期の更新です。月3回を目標に。

『秤違い』

問題です。目の前に何やらお困りの様子で立っている白髪の老人がいました。あなたはその腰の曲がった老人に声をかけますか?


ある日、友人はその問いに悩まされた。その問いと向かい合った時が、必ずしも自分に余裕のある状態であるとは限らない。実際に友人もそうだった。

その日は大切な予定があり、それに遅れるわけにはいかない。しかし人助けをする。そんな偽善にも近い良心が働こうとしている。ふたつを天秤にかけた時、どちらに傾くか、しばらくシーソーのように揺れ動いたのだが、結局ヤジロベイのようにバランスを取ったまま、どちらにも傾くことはなかったと言う。

「それで結局どうしたのよ?」

私に問い質され、友人は少し口籠もる。

「どうしたって、そりゃ……ねえ」

実際に友人がした行動は“見守る”だった。

友人には老人を見捨てることができなかった。しかし声をかけてしまえば、長時間囚われてしまい、大切な予定を台無しにしてしまい兼ねない。
そうなると、しばらく遠くから見守り、他の良心の塊のような人が私の代わりに老人に声をかけてくれるのを待つしかなかった。

「その良心の塊って人は現れたの?」

「……うん。一応ね」

「一応って、どういう意味よ」

老人に声をかけたのは、その老人と近い年齢の男性だった。互いの目が合うと、困り果てていた老人は仏のような微笑みになり、ゆっくりとした速度で人混みの中に消えていったらしい。

「なんだ、良かったじゃない。別に困ってたわけじゃなかったんだ。あんたの思い違いだったってわけね」

「でもねえ、なんだか悔しいというか……」

「ふ~ん。だけどさ、そのあんたの安っぽい良心と天秤にかけて揺らがない大切な予定って何だったのよ?」

私の少し嫌味を含んだ問いに、友人はふんと鼻を鳴らして答えた。

「彼と会う予定だったの」

「彼って、あんた付き合ってる人いたんだっけ?」

「だいぶ前からね」

「え、そうなんだ。写真とかある?」

「あるけど……」

私のお願いに、友人は渋々写真を見せてくれた。

「え! これって……」

「そう、この白髪のおじいちゃんが私の彼氏。絶対引かれると思ってたから黙ってたの」

「ごめん。もしかしてなんだけど、私の想像してた天秤の種類とは、ちょっと違ったのかもしれない」

「ん? どういうこと?」
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