十文字掌編小説ぶろぐ

べんべんとした日常に豊かな物語を。短くたって構わない。豊かなものでさえあれば。 不定期の更新です。月3回を目標に。

『女祭司とアルカナ』

「神の御加護があらんことを」

アルカナとそのおばあちゃんは、毎週日曜日に教会で行われるミサに参加していた。

そしてその日のミサが終わり、町人たちがぞろぞろと帰宅の途に着く中、二人は最後まで教会の中に残っていた。それには理由があり、教会の女祭司に挨拶をするためだった。

「ごきげんよう祭司様」

おばあちゃんが先に挨拶をする。

「ごきげんよう。おばあさま。お久しぶりです。お元気そうでなにより」

「いいえ。これも私の大切なアルカナが傍に居てくれるからですよ」

「それはそれは、アルカナちゃんもお元気そうで」

「ごきげんよう祭司様。あたしは元気よ。――ところで祭司様。ちょっと聞いてもいいかしら」

「ええ、どうぞ」

「最近の祭司様はなんだかお困りのように見えるんだけど、何かあったのかしら?」

アルカナの観察眼は人よりも少し鋭かった。

「流石ですね。確かに最近色々ありまして……」

「何か困り事でもあったのですか祭司様?」

おばあちゃんも心配になり訊いた。すると女祭司は視線を下げ、「ここ数日のことなんですが」と前置きをしてから話し出した。

「教会の入口に柘榴の実を置いてくださる方がいらっしゃるのですが、それがいったいどこの誰なのか……」

女祭司は一度奥の扉に入り戻ってきたその手には、籠いっぱいに入った真っ赤な柘榴の実があった。

「あら、きれいだわね」とおばあちゃんが目を輝かせている中、アルカナは既に瞑想に入っていた。

「……あるかな?」

心配そうに見つめる女祭司に対し、アルカナは努めて明るく「あったよ!」と言った。

「いったい何があったのかしら?」

女祭司の問いに、アルカナは微笑みながら答える。

「その柘榴は小鳥さんが運んだものね。北西にある森の中に柘榴の木があって、そこから運んで来るみたい」

「でも、いったいなぜ?」

「それはわかないわよ。小鳥さんの気持ちまではねえ」

「そうですよね。それじゃどんな小鳥さんなのか、わかります?」

「うん。でもね、その小鳥さんは恥ずかしがり屋さんみたいだから、女祭司様には教えられないわ」

「そうなの。それは残念ですね……。それではこの柘榴小鳥さんのご厚意とわかりましたので、修道女の皆で美味しく頂くことに致します」

それからアルカナは、おばあちゃんと二人で家までの道を歩いていた。その途中でアルカナはおばあちゃんに訊いた。

「柘榴ってどんな果実なの?」

「どんなってねえ……女性にとっては宝石のようなものかしら。美しく輝くために、あったらいいなっていうものなんだろうね」

「それじゃ小鳥さんは、女祭司さんのことをあたし達と同じように崇めていたのかな」

「そうだね。女祭司さんは私たち女性の鏡みたいな存在だからね」
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