十文字掌編小説ぶろぐ

べんべんとした日常に豊かな物語を。短くたって構わない。豊かなものでさえあれば。 不定期の更新です。月3回を目標に。

『華取物語』

今回は『竹取物語』ではなく、『華取物語』です。


昔々、とある将軍家の嫡男、十兵衛のところに見合い話がやってきた。

しかしそのお見合い相手は一人ではなく二人。

ひとりの女の名は胡蝶蘭。彼女は京都出身の役所の娘であり、肌が白くつぶらな瞳を持っている。

もうひとりの女の名は月下香。彼女は下町の商人の娘であり、肌が白く小柄な体つきであった。

花の名を授かった二人の女は、顔は違えどとても美人であった。

欲深い十兵衛は、その二人の美女に一目で惚れてしまい、どちらを選ぶのかに迷った。両手に華ともいかぬ御時世において、どちらかと夫婦にならざるを得ない状況に、十兵衛は幸か不幸かひとつの妙案を思いついた。

「お主たち。オイラと夫婦となった暁には、いったいどんなことをしてくれる。それにて判断しようぞ」

二人は各々考え込んだあと、胡蝶蘭が先に口を開いた。

「私は、毎日殿方様のお傍におり身の回りのお世話を致します。また私の家系は多くの子を産みます。実際に私めも五人兄妹でございます。多くの子を産めば、優秀な殿方様の血を受け継いだ子が、広く世に出て活躍致すことでしょう」

「なるほど、どれは期待が膨らむな」

すると今度は月下香が口を開く。

「実は私、子を産めぬ身体でございます」

「それはなんと」

「しかしながら、十兵衛殿。私は多くの殿方と顔馴染みでございます。いいえ、更に申し上げますと私の言うことは何でも聞いてくれる、そのような殿方が全国に多くおるのです」

「それはいったいどういうことなのだ?」

「要するに、私のちょっとした口添えで、全国の名だたる将軍様や大名などを自由に動かせるのですよ」

「いやはや、それは何とも素晴らしいことだが、それほどの力にはどうしてもきな臭い節がある。オイラにそれを信じさせる確固たる証拠がなければ、お主を迎入れるわけにはいかぬよのう」

「それでしたら十兵衛殿――」と月下香は言い、自らが身に纏っていた着物を脱ぎ始めた。

「お主、なにを?」

すると、十兵衛の眼下に広がった光景は、一糸まとわぬ複数の乙女たちが突如現れ、可憐に踊り出したのだ。

しかし実際には、月下香が着物をはだけさせただけで、それ以外のことは何も起きていない。
十兵衛は幻覚を見ていた。

「あなた、いったい殿方様になにをしたの?」

横で見ていた胡蝶蘭が月下香に問うと、不気味に笑いながら答えた。

「なに、私の力を証明したまでですよ。これでもう十兵衛殿はあなたのものですよ。胡蝶蘭さん」

そう言葉残して月下香はその場から立ち去った。どうしたらよいものか、胡蝶蘭が戸惑っていると、幻覚を見ている十兵衛がおかしなことを言った。

「ここは花畑か。良き匂いがする。蝶よ花よと育てよう。さすれば多くの秀才な子が産まれる。祝おうぞ胡蝶蘭」
スポンサーサイト