十文字掌編小説ぶろぐ

べんべんとした日常に豊かな物語を。短くたって構わない。豊かなものでさえあれば。 不定期の更新です。月3回を目標に。

『魔術師とアルカナ』

ある日、アルカナの住む町に自身は手品師であると名乗る男が現れた。

その手品師は町の一角に自らの店を建て、そこで自慢の手品を披露して訪れる客たちを楽しませていた。

しかしある日、その店を訪れた一人の客が、憤怒の形相でアルカナの家にやってきた。

「あの店はとんだインチキだ」

「どうかしたの?」

「聞いてくれアルカナちゃん。あの店の手品師に言われたんだ。『あなたは近いうちに大切なものを手放すことになる』って。それを聞いた時、こいつは何かの悪徳商法でもやっているのかと思って、その後に助言みたいなことも言われたんだが、てんで相手にしなかったんだけどよ。この前本当になくなったんだ」

「何がなくなったの?」

「……俺の息子だ。突然家から出て行ってしまったんだ。息子との仲違いなんてものはなかったし、この町に人攫いのような輩がいるとも思えない。犯人は絶対にあの手品師だ」

「じゃあ、あなたの息子さんを捜してあげるね」

そして「あるかな?」と呟きアルカナは瞑想する。

「どうかな?」

「あったよ! ……でも」

アルカナの表情は明らかに曇っていた。

「あなたの息子は確かにその手品師の所にいるわ。でも、ちょっと変なの」

「変?」

「息子さんの姿が見えないの。その手品師のお店にいるはずなのに。どうしてかしら」

その客は曖昧な確信のままでは店に押しかけられないと言って、その日は足取り重く家路についた。
頭の中に霧がかかったような状態を嫌うアルカナは、それをすっきりさせたいと思い、おばあちゃんに頼んで例の手品師を呼んでもらった。

「あなたにお目にかかれて光栄です。アルカナ様。お噂はかねがね」

西洋紳士のような佇まいで現れた手品師は深々とお辞儀をする。

「あなたは町人たちから、子どもたちを攫っているわね。でも、あなたのお店には子どもたちの姿はない。これはどういうことなの?」

「これはこれは、流石といったところですね。ですが攫っているというよりも奪っているというのが正しいのです」

「どういうこと?」

「実は私、手品師というのは偽りの姿でありまして、真の姿は魔術師なのです」

「魔術師?」

「ええ。人の心を奪う魔法を子どもたちにかけたのです。姿が見えないのは、心だけを奪ったからですよ。もう一度あなたのその不思議な力を試してみてはもらえないでしょうか。ここに訪れた町人の息子さんを捜してみては」

「わかったわ」

その魔術師に言われたとおりにアルカナは瞑想する。すると、アルカナは小さく頷いた。

「本当ね、確かに彼の家にいたわ。でもあれね、またちょっと変ね。この子ちっとも笑ってない。まるでブリキの人形みたい」

「そうでしょう、心を奪ったのですから。恐らくその町人が語った息子さんがいなくなったというのも、何かの当て付けだったのでしょう」

「ねえ、魔術師さん。ちょっと聞いてもいい?」

「なんでしょうか」

「どうして魔術師の姿を偽って、手品師としてお店を開いているの?」

「それはですね。魔術というものは人々にとって神秘的なものであり続けなければいけないからです。現実に当たり前のように存在してしまえば、初めは輝いていたとしても時が経つに連れ、いつかは輝きを失ってしまう。それはこの世に存在する万物に言えることなんです。永遠の輝きを維持するには、神秘的であり続けなければいけないのですよ」

「それって、あたしに話しちゃって大丈夫なの?」

「ええ、問題ありません。――アルカナ様も私と似たもの同士なので」

結局、アルカナが初めに町人の息子を捜した際に、その姿が見えなかった原因は霧に包まれたままだったが、アルカナは全く気にならなくなっていた。
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