十文字掌編小説ぶろぐ

べんべんとした日常に豊かな物語を。短くたって構わない。豊かなものでさえあれば。 不定期の更新です。月3回を目標に。

『アリの塔』

住宅街の小さな公園の一角の土地にせっせと働くアリたちがいました。

そのアリたちは、何やら地面に穴を掘っています。その穴は自分たちの住処なのかと思いきや、どうやら少し違うようです。穴の入口は広く、複数に枝分かれするようでもなく、そしてなにより浅いのです。

しばらくすると、別のアリたちが何やら大きな種を運んできました。そしてそれを掘った穴に置き、その上に掘った土をかけ始めました。

アリたちに指示を出している隊長アリが言います。

「よーし、大切に扱え。これは私たちの夢がかかってるんだぞ」

「オー!!」

隊長の一言で、アリたちの士気はより強くなりました。そして種を埋め終えた翌日にちょうど雨が降り、種の埋めた地面から真っ白な芽が出てきました。それからその芽は勢いよく成長し、塔のように天高く伸びていきました。

それを確認した隊長アリが皆に言います。

「よーし、みんな私についてこい! これからこの塔を上っていくぞ。準備はいいかぁ!」

「オー!!」

かけ声とともにアリたちは、隊長アリの後に続いて列になって塔を上っていきます。

しばらく上っていくと、隊長アリの近くにいた兵隊アリが訊ねます。

「隊長、ひとつ伺ってもいいですか?」

「なんだ」

「この塔の先にはいったいどんな夢が待っているのですか?」

「それはもっと上に上った時に教えてやる。今はただ真っ直ぐ上だけを見ていろ。そうすれば夢は大きく膨らむぞ」

「はいっ!」

すると今度は列の後方にいた兵隊アリが隊長に向かって叫びました。

「隊長! 大変です。塔にヒビが入っています!」

「構うなあ! 途中で歩みを止めてはならん。足下なんか気にせず上だけを見て進め! バカモン!!」

「すみません!」

そしてついに塔のてっぺん近くまでやってきました。

「もう少しだぞお前ら!」

隊長がそう皆を鼓舞した時でした。強い突風が彼らを襲い、塔を大きく揺らしたのです。そしてまるで雷に打たれたかのような鈍い音がしました。
なんてことでしょう。塔が根元から折れてしまったのです。
塔はみるみる傾き、その塔につかまっていたアリたちも次々と放り出されていきます。

「隊長ー!!」

兵隊アリたちが隊長に助けを求めますが、その隊長も一緒に宙へと放り出されてしまっていました。

するとなぜか一人だけ冷静な隊長アリが、一番近くにいた兵隊アリに向かって囁くように言いました。

「実は私が夢見ていたものは、今のこの状況なのだ。私たちは常に地面ばかりを見てそして這いつくばりながら生きてきた。いつか天を見上げながら生きようとし、そして死ぬ時は人よりも高い場所で死にたかった。踏まれて死ぬのだけは嫌だったのだ」

「……そんな」

「皆を巻き込んで申し訳ないと思っている」

その懺悔を聞いた兵隊アリは言葉を返します。

「しかし、隊長。このままで結局地面に潰されてしまいます。さらにその後を人に踏まれるかも知れませぬ。それではあまり変わらないのでは?
それにお言葉ですが、夢は膨らませるものではありません。膨らませて破裂させてしまっては元も子もありませんから。夢は――見たり描いたり叶えたりするものだと、私は思います」



それからしばらく時が経ち、塔が折れた根元からは真っ白な花が咲いていました。その花の周りを踏みつぶす人は、もちろん誰もいません。

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