十文字掌編小説ぶろぐ

べんべんとした日常に豊かな物語を。短くたって構わない。豊かなものでさえあれば。 不定期の更新です。月3回を目標に。

『半可な王様』

『裸の王様』ではなく『半可な王様』です。


その王様は、まだ王様となって七日目でした。王様の父上が突然病に倒れ、心落ち着ける間もなく王様となったのでした。正直なところ、この王様は自分が王様になることを渋っていました。しかし、王様には他に兄弟もおらず、母上は父上よりも前に亡くなっています。
そのため、王様とはいったい王様とはどんな事をすれば良いのか全くわかりません。ただ、もちろん父上の姿を見て育ったので、格好だけはつきます。しかし、具体的にどんな仕事をしていたかまでは、わかりません。

すると、側に仕える兵士が言います。

「王様、まずは人の善悪を判断する目を養うことから始めてはいかがでしょう?」

――王様とは国に住む多くの人々の一番上に立つ存在。その存在が確たる正義の下で国を治めてこそ、他国にも誇れる王となれようぞ。

父上の言葉を王様は思い出します。そして王様はまず、この国で罪を犯した者と話しをしようと決めました。悪しき人とそうでない人を区別する目を養うためです。王様の住むお城の地下には、様々な罪で捕まり牢屋で暮らす者がいます。

その中から王様が話し相手に選んだのは、顔中に深い皺が刻まれた老人でした。老いたる馬は道を忘れずとはよく言います。その老人の罪名は窃盗。何度も罪を犯しては捕まっている常習犯でした。

「お主はなぜ、人のものを盗むのだ?」王様は訊きます。

「私は欲が抑え切れんのです。人が持っている物が欲しいとすぐに感じてしまい、気づいたときには盗んでおるのです」

「いくら盗んでも、次から次へとその欲が出てくると?」

「そうです。今も、私の欲は尽きません。王様が着てらっしゃるその服さえも欲しいと感じてしまうのです」

「そうか。ならばこの服をお主にくれてやろう」

そう言うと、王様は自らが着ていた王の証でもある服を脱ぎ、その老人に与えます。服を受け取った老人は、すぐにその服を着て言います。

「これは、なんと素晴らしい服でしょうか。私が今まで盗んだ物の中で一番といってもいい」

そんな喜ぶ老人に対して、裸になった王様は微笑みながら言いました。

「では、お主が今日から王様だ」
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