十文字掌編小説ぶろぐ

べんべんとした日常に豊かな物語を。短くたって構わない。豊かなものでさえあれば。 不定期の更新です。月3回を目標に。

『九官鳥の台詞』

「久しぶり」

玄関の扉を開けて入ってきたのは、十年前に別れた元恋人の淳次だった。

淳次とは大学を卒業後、多忙からのすれ違いから徐々に会う機会がなくなり、関係は自然消滅していた。久しぶりに会わないかと淳次の方から連絡があり、聞きたいこともあったので会うことにしたのだ。

淳次は部屋に入るなり舐めまわすように部屋の中を見回す。

「相変わらず、動物が好きなんだな」

部屋の中には使い慣れた動物柄の家具が並び、動物のキャラクターのぬいぐるみなどが所狭しと飾られている。淳次には見慣れた光景だろう。違うのは、部屋の片隅にいる一羽の九官鳥だ。

「ご挨拶して」

わたしがそう言うと、九官鳥はとぼけた表情で人の言葉を発した。

「コンニチワ、ジュンジ」

「へー、すごいね。こんにちは」

「ねえ淳次、久しぶりに会って、話したいことがあるって言ってたけど、何なの?」

「……僕たち、もう一度やり直さないかなって思って」

「アエテウレシイ」

「やっぱりね。そうだろうと思ったわ。でも、どういう風の吹き回しかしら。突然何も連絡無しに蒸発した人が、降って湧いたかのように現れて」

「実は……先月、離婚したんだ」

「ダケドネ」

「なるほど。最愛の人と別れた寂しさで空いた穴を、昔の恋人で埋めようっていう魂胆ね。わかりやすい。ほんと、あなたも変わってないわね」

「だめ、かな?」

「ゴメンナサイ」

「『わかった、いいわよ』なんて言うと思ってるの? そんなに柔だと思われてたなんて心外だわ」

「だよね。でも、それならどうして会ってくれたの?」

「ドウシテモ」

「聞きたいことがあったのよ」

「聞きたいこと?」

「ヤメラレナイノ」

「私は何番目?」

「え?」

「ヤメラレナイ」

「淳次にとって私は何番目の女だったのって聞いてるの。女を洋服みたいに取っ替え引っ替えして」

「い、一番だから今こうしてここにいるんじゃないか」

「ウワキ」

「うそ、うそ、うそ。ここ十年間のあたなのことは全部知ってるわ。探偵まで使って全部調べたもの。キューちゃん、わたしの代わりに言ってちょうだい」


「ダイスキ」

この九官鳥の言葉には、何の意味も温もりもない。しかし、わたしたちの肌が触れ合うことになったのは、台本通り。

情けない。

でも、やめられない。
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