十文字掌編小説ぶろぐ

べんべんとした日常に豊かな物語を。短くたって構わない。豊かなものでさえあれば。 不定期の更新です。月3回を目標に。

『日向水のような悪知恵』

今年からぼくのが通う小学校に新しく赴任してきた大蔵先生は、とても堅物な人でどの児童に対しても心を開かず、怒ると鬼のように怖かった。男子児童に対しては拳骨を食らわすこともしばしば。そんな大蔵先生に対して、ぼくと友人の海斗はなんとか仕返しができないかと日々考えていた。

そんなある日、海斗が良いことを思いついたとぼくに話してきた。それは大蔵が通勤で使っている自慢のスポーツカーのフロントガラスを汚して困らせてやろうというもの。どのようにして汚すのか。そこがポイントだと海斗は言った。

「カタツムリを使うんだ」

海斗の作戦はこうだ。
まず最初に一匹のカタツムリを車のフロントガラスに這わらせる。それを毎日繰り返す。そうすれば、すぐには誰かの仕業だとは気づかない。そして雨が朝から降っている日を見計らって、それまで大量に捕まえていたカタツムリをフロントガラスに這わらせるのだ。

ぼくもその作戦に乗り、二人でできるだけ多くのカタツムリを集めた。ちょうど季節も梅雨の時期だったからこそ、海斗も思いついたのだろう。カタツムリは合計で十匹も集まった。そして僕らの仕返しは、お天気お姉さんの梅雨入り宣言とともに始まった。

朝、厚い雲が空を覆う中、海斗が一匹のカタツムリを大蔵のスポーツカーのフロントガラスに置いてきた。そして下校の時間、ぼくらはこっそりと教職員の車が置いてある駐車場に向かうと、すでにカタツムリの姿は見えなくなってはいたが、確かにそこにはカタツムリが通った跡がくっきりとフロントガラスに残っていた。

一匹のカタツムリを失ったのは痛かったが、また捕まえれば良い。雨の降るその時までに新しく捕まえておけばいいのだから。そんなふうに思っていたら意外にも早く最終決戦の合図は来てしまった。

翌日は朝から雨だった。海斗と相談して、最終決戦は二日後にしようと決めた。それまでは一匹ずつを繰り返す。お天気お姉さんによれば、今日から三日間は雨が続くらしい。

そして二日後、ぼくらは集めたカタツムリを持って学校へと向かった。その日は休日でぼくら以外に他の児童はいないので、校舎の裏から入り駐車場に向かうと、いつもの場所に大蔵先生のスポーツカーは駐めてあった。肌にへばりつくような雨が降り続いている。ぼくは急いで集めたカタツムリたちをフロントガラスの上に置き、すぐにその場を去ろうとしたのだが、海斗は何やら違うことをしている。ぼくが訊くと海斗は悪戯に微笑んだ。

「カタツムリにはこれだろ!」

そう言って、海斗は自分のポケットから袋を取りだし、カタツムリの乗ったフロントガラスに白い粉のようなものをばら撒いた。そして一目散に走り出す。一瞬ぼくは面食らい、呆然としていたのだが、すぐに海斗の後を追ってその場から離れた。

後から訊くと、撒いたのは塩らしい。そして画に描いたような笑みで海斗は言った。

「敵に塩を送ってみたかった」

海斗は最近ことわざにはまっているのだとか。
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