十文字掌編小説ぶろぐ

べんべんとした日常に豊かな物語を。短くたって構わない。豊かなものでさえあれば。 不定期の更新です。月3回を目標に。

『蜘蛛の巣後光』

雨上がりの夕刻、秀志(てるよし)は地元にある小さなお寺を訪れていた。

そのお寺は秀志が幼い頃から何度も遊びに来ていた場所で、本堂へと繋がる真っ直ぐな階段はとても急なものであった。
距離も相当なもので、お年寄りや子どもが上り下りするには少し厳しい。陸上部などがトレーニングで使用しそうなほどの代物。中央に藁縄でできた手摺りはあるものの、足腰にかかる負担は相当なものだった。

秀志には何か特別願い事などがあるわけではないのだが、このお寺に足を運びお賽銭を入れて合掌する。そして日頃の感謝を阿弥陀如来様に伝えるのが日課になっていた。

鳥居をくぐり階段を上りきったところで、秀志の前に四人組の若い男女が賽銭箱の近くで屯していた。なるべくなら静かに参拝したいと秀志は思っていたので、彼らがその場を離れるまで、側にあった錆び付いた長椅子に腰掛けて待つことにした。

しかし、四人の男女は話に盛り上がり、なかなか賽銭箱の近くから離れようとしない。秀志の存在にも気づいていないようだった。

しばらくすると、ようやくその男女は賽銭箱から離れて帰って行った。しかしすぐに今度は別の若者たちが姿を現し、小走りで賽銭箱に近づくやいなや、長いこと手を合わせていた。

そういえば最近テレビか何かで、このお寺が幸運の場所とか何かの御利益があるというのが、インターネットで広まっているという報道を目にしたのを秀志は思い出した。そのせいで今日も来訪者が後を絶たないのだろう。お寺にとっては良いことなのかも知れないが、秀志にとっては迷惑な話であった。

お寺を囲む木々の陰が線のように細長くなりだした頃、ようやく静かになった。

秀志は賽銭箱に近づき、中に一万円札を入れて合掌した。

「今日はくじ運がなかったようです。――阿弥陀様」

合掌を終えてお寺を後にしようとすると、お寺の住職が秀志の元に近づいてきた。

「こんばんは、秀志さん」

「こんばんは、住職さん。お変わりなくてなによりです」

「いいえ。私ももう年ですんで、老体に鞭打ってなんとかです。でも、このお寺の構造上、お年を召した方やお子様は足を運びづらいので、秀志さんみたいな若い方にたくさん来てもらえるようになって感謝しているのですよ」

夕日を背に立つ住職の背中には、ちょうど木々の間から漏れる光線が当たっていたため逆光となり、その仏のような笑みをはっきりと拝見することはできなかった。
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