十文字掌編小説ぶろぐ

べんべんとした日常に豊かな物語を。短くたって構わない。豊かなものでさえあれば。 不定期の更新です。月3回を目標に。

『あんずるべき』

「詰まるところ、栴檀は双葉より芳しってことだ」


「どういう意味です?」


「幼い頃から彼には人を欺く才能があったということだよ。友人たちに好かれようと明るく振る舞い、親の前では秀才を気取り、教師や目上の人に対しては誠実を装う。しかし彼の本性はそれとは正反対だった。本性を隠して何十年も生活できる人間はそうはいない」


「でも先輩、彼には幼い頃虐めにあっていたという情報もあります。そういった場面で彼の本性とやらが、爆発しちゃってもおかしくはないですよね」


「確かにそうだが、その程度、いやその程度と言っては語弊が生じるが、彼にとっては虐めというのがその引き金にはならなかったのだろう。だからこそ、今回のことは俺たちだけじゃなくて、彼の周りの人間や更には多くの世間にも衝撃与える形になってしまったのだ。彼の役者という職業は転職でもあったが、導線の短いでもあったのかもしれない」


「それじゃ今回、彼の本性を爆発させてしまったその引き金とは一体何だったんですかね」


「恐らく彼の積み重なった思愛が、彼を変えてしまったんだろうな。これといった決定打を知るには当人に聞かねば解るまい」


「そうですね、自分も今度会った時にでも聞いてみます、彼に。あ、でも本人に会ったら気をつけないといけませんね。もう彼じゃなくて彼女になってるんですから」
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