十文字掌編小説ぶろぐ

べんべんとした日常に豊かな物語を。短くたって構わない。豊かなものでさえあれば。 不定期の更新です。月3回を目標に。

『サルの芸事』

一匹の芸達者なサルが、木々に囲まれた森の広場で住民たちにその芸を披露していました。その芸は他の動物たちにはもちろん、同じサル同士でも一目置く存在でありました。

するとその芸を初めて観ていたキツネが言いました。

「さっぱりだ。いったい何がすごいのかわからん。それにそんなもの何の役にも立たないだろう」

芸の途中、そのキツネは居眠りまでしていました。
その言葉に反論するかのように、同じく芸を観ていたリスが皮肉を交えて言います。

「いやあ、何度観ても素晴らしい。利便性なんて考える方がどうかしてる」

リスは大袈裟に手を叩いて、サルの芸を賞賛します。

そんな二匹の様子を、少し離れた所で眺めている老いたサルがいました。その老いたサルは、地に足を着けて生きてきたような風格があり、その瞳は冬枯れの梢のように鋭いものでした。

老いたサルは言います。

「流石やな。あの芸当、三日三晩でできるもんやない。しかも、今回はまた少しばかり変えてきよったわい」

確かに芸達者なサルの芸は、素人目には全くわからないほど繊細な技術が必要でありました。さらに才気溢れるサルは、毎回同じことをしても飽きてしまうという理由から、実は少しだけ芸の技を変えていました。


芸事を十分に楽しむには、確かな嗜みは必要不可欠。その方が満足感は大きいものです。
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