十文字掌編小説ぶろぐ

べんべんとした日常に豊かな物語を。短くたって構わない。豊かなものでさえあれば。 不定期の更新です。月3回を目標に。

『もれなくどうぞ』

「ここにいるA氏、B氏、C氏、そしてD氏。この四人の中に犯人がいる。それで間違いないんですよね、先生」

「ああ、確かに四人ともアリバイは無く、被害者を殺す動機も十分だ」

「それじゃいったい、誰が犯人なんですか?」

「待て待て、それを話すには、まだ時期尚早だよ」

「どうしてです?」

「何事に置いても順序は大切だ。途中の過程を省いてしまえば、終盤への衝撃が薄れてしまうだろう。《お前が犯人だ!》と声高々と言い放った後に、その犯人の殺人方法や動機などを語ったところで、メインディッシュの後に前菜を食べるようなもの。味気ないし胃にも良くないのさ」

「なるほど。ですが先生、お時間の方もあまり無いみたいなんですよ。四人の容疑者たちも自分を疑われて苛立っていますし、もしこの中に犯人がいるのだとしたら、その凶悪な犯人が痺れを切らして何をし出すかもわかりません。何卒お願いします。……胃薬もありますから」

「それについては心配御無用。この期に及んで再び殺人を犯そうなどという輩がこの場にいるのなら、私も抜かりなく警戒はしてきている。ただ、本当に時間が惜しいというのなら、私の代わりに君が犯人を言い当ててくれても構わないのだが」

「え、でも、私には誰が犯人なのか――」

「わからないとでも言うつもりかね? 君も私の下で働いて何年になるんだ。もうそろそろ独り立ちしてもらわないと困る。憶測でも構わん。言い放ってみよ。助け船は出してやる。大丈夫だ、天網恢々疎にして漏らさずだよ」

「……わかりました。やってみます」


《犯人はここにいる四人、全員です!!》

「ご名答」
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