十文字掌編小説ぶろぐ

べんべんとした日常に豊かな物語を。短くたって構わない。豊かなものでさえあれば。 不定期の更新です。月3回を目標に。

『ドライアイスのような麗日』

十和子の娘であるひとみが十二歳という若さでこの世を去ったのが、ちょうど二年前。これから暖かくなろうという季節。
母子家庭だった十和子にとって、たった一人の家族を失った悲嘆は、想像を絶するものだった。

そんな憔悴しきった十和子を救ったのは、ひとみが残した少し変わった手紙であった。
その手紙が見つかったのは、ひとみが使っていた勉強机にある鍵のついた引き出しの中。鍵がかかっていたので、しばらくはそのままにしていたのだが、十和子が部屋を引っ越す際に机を手放さなければならなくなり、思い出の品だけでも残しておこうと、全ての引き出しの中を調べている時に見つかった。

引き出しの中には、鋏で細かく切られた折り紙の残骸が、その手紙を包み込むように敷き詰められていた。よく見ると、その折り紙は白と桃色の紙のみだった。それを見た途端、十和子は再び二年前の惨劇を思い出してしまった。

どうしてひとみはこの世を去らなければいけなかったのか。

ひとみはこの勉強机があった部屋の窓から飛び降りた。十二階の高さから。遺書は見つからなかったものの、警察は状況から見て自殺と判断した。ベランダのある窓ではない。それに十二歳の少女が誤って転落する可能性も低いと。それに後から調べると、ひとみは通う学校で苛められていた。

十和子は折り紙の残骸から手紙を手に取り、確認する。しかし、その手紙は遺恨の詰まった遺書でもなく、ましてや十和子に宛てたものでもなかった。

手紙を読み終えた十和子は、徐に部屋の窓を開けた。そこから二度と見ることはないだろうと思っていた景色を再び眺めた。当然だが、そこに赤く歪んだひとみの姿はない。

いたのは、空を舞う青く透き通ったひとみの姿。

春の温かい風が、ひとみを見えなくなるまで空高く運んでいった。
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