十文字掌編小説ぶろぐ

べんべんとした日常に豊かな物語を。短くたって構わない。豊かなものでさえあれば。 不定期の更新です。月3回を目標に。

『お腹の白い黒猫』

雨上がりの夜。人気のない路地裏に、一匹の黒猫がいました。

その黒猫は物影を好んで歩き、あまり明るいところへは出向いていきません。それは自分の姿を誰かに見られたくないと思っていたからです。その理由は、お腹の毛の色が白く変色してしまっていたからでした。

若い頃は全身の毛の色は真っ黒であったのに、老いを感じ始めた頃からスポンジに水が染み入るように足先の毛から白くなっていきました。今ではお腹の辺りの毛まで白くなっています。これではもう、黒猫とは呼べません。

自分は何かの病気なのではないかとも疑いました。しかし、身体の調子が悪い気配は全くありませんでした。食欲もあり、脚力にもまだまだ衰えはあれど、全くできないというわけではありません。何が原因なのか黒猫は独りで考えていると、初めて見る顔の三毛猫が近づいてきて言うのです。

「お主は、何をそんなに悩んでいるのだ? ミーで良ければ聞いてやろう」

黒猫は答えます。

「おいらは元々黒猫だったんだ。それが年をとる度に毛の色が白くなっていくんだ。これじゃ、人間の頭と一緒だ。そしたらいつか、おいらの毛もすべて抜けて剥げちまうんじゃねえかって」

すると、三毛猫はお腹を抱えて笑い出しました。

「アハハ、それは大壮な悩みだ。剥げちまうってか、大丈夫だ、そんなことはありえん」

「それじゃ、どうしておいらの毛は白くなってるんだ!?」

その黒猫の言葉に、三毛猫は魂が抜けたかのようにスッと笑うのを止め、急に真剣な顔つきに変わり、黒猫の背中をさすり出しました。

「何をするんだ?」

「ちょっと聞いてもいいか?」

三毛猫の行動に不信感を抱きながらも、ただならぬ雰囲気にもあてられて黒猫は頷きました。

「お主はだいぶ背負い込んじまってるな。こんなに曲がっちまって。お主は自分自身でこれまで生きてきた時間を不毛だと思っているだろう」

確かに黒猫は、生まれたばかりに人間に捨てられて以来、人間に飼われることもなく一匹で生きてきました。満足にご飯を食べられていたわけでもなく、時にはカラスに襲われそうになったこともあります。自分が野良猫として生きてきた時間が不毛であると言われれば、そうかも知れません。

「だけどな、そんなことは今すぐに決めるもんじゃない。まだこれから先も生きるんだからな。たまには明るいところで自分の姿を見返すといい」

そう言うと、三毛猫は身を反して離れていきます。


朝になり、言われたとおり黒猫は水たまりに映る自分の姿を見に行きました。するとどうでしょう、そこにいたのは黒猫ではなく、三毛猫でした。
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