十文字掌編小説ぶろぐ

べんべんとした日常に豊かな物語を。短くたって構わない。豊かなものでさえあれば。 不定期の更新です。月3回を目標に。

『餓え知らぬ』

私が住む近所の公園に、Jは住んでいた。

その公園には休日ともなると親子連れやカップルなどで賑わう場所なのだが、所構わずJはその一角に段ボールやブルーシートなどで居座っている。そこからは時折風が吹くと豚小屋のような異臭が辺りを包み込むので、何度か行政の人が退去勧告をしていたのだが、Jは全く動こうとはしなかった。

Jは専らごみ箱を漁り、近所のコンビニや商店街から食料を調達しているようだった。しかしそれだけでは満たされないのか、赤の他人に対してまで食料を求めたりもしていた。まだ野猿のように奪い取ったりしないだけでも救いだった。

私はできる限りJとは関わらないように努めてきたのだが、そんなある日、公園の側を通りかかった時に背の低い植木の側にいたJと鉢合わせしてしまったのだ。右手にはレジ袋を握りしめ、何やら植木の方を見つめている。Jも私の存在に気づいて振り向く。警戒範囲を示すかのようにJの身体の周りを数匹の蠅が飛び交っていた。

するとJはなぜか歪んだ笑みを見せた。そのただならぬ雰囲気に私が思わず後退りをすると、Jは何もせずにそのまま振り返り、公園の敷地内へと入っていった。

その時の私は何一つ食料となるのものを持っていなかった。何か要求されたらどうしようという緊張感から解放されて一息ついていると、ふとJが植木の側で何をやっていたのか気になった。近づいてみると植木の一部が剥げていて、露わになった土の上にコンビニで売られている菓子パンが置かれていた。どうやら封は開いていない。

なぜ食べ物を粗末にするようなことをするのか。私は憤り、すぐその菓子パンを拾ってJの後を追った。

「どうして捨てたんですか?」

追いついた私がJに向かって菓子パンを突きつけると、Jは再び歪んだ笑みを見せた。

「何の話だよ。――でもまあ、食べられるんならもらってやる」

Jはそう言うと、豚の足のような腕で菓子パンを受け取った。
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