十文字掌編小説ぶろぐ

べんべんとした日常に豊かな物語を。短くたって構わない。豊かなものでさえあれば。 不定期の更新です。月3回を目標に。

『開かずの巾着』

さて、今回は『赤ずきんちゃん』ではなく『開かずの巾着』です。


肌を刺すような冷え込んだ夜。その日暮らしをする男がいました。男には一定の住居もなく、外で宿を取ることも少なくありません。そんな男は当然ながらお金に困っていました。たまにする仕事だけでは部屋を借りることすらできません。

男はかじかんだ手を温めながら住宅街を練り歩いていました。時折すれ違う人々は男のことを蔑んだような目つきで一瞥してきますが、男は全く気にも留めず歩いて行きます。男の風貌は確かに不自然です。髭を生やし髪もボサボサ、服装もここ数年は同じものを着ています。

しばらくして男は目的の公園にたどり着きました。この公園には何度か訪れたことがありました。同じ場所にずっと居続けると、近所の人に怪しまれてしまうので、しばらくしたら寝床を移動しなくてはなりません。転々と移動する、男にとってそれは慣れっこでしたが、この公園には比較的に多く訪れていました。その理由は、この公園には野良猫が数匹現れるからでした。

猫は男の風貌を見ても全く瞳を変えずに擦り寄って来てくれます。男が唯一温もりを感じることができる空間でした。
男は公園の草むらに自分の荷物を置き、その荷物の中から猫の餌を地面に撒き、自分は公園の敷地内から出ました。そうしておけば、そのうち餌に釣られた野良猫たちが顔を見せてくれるはず。公園から出たのは野良猫たちの警戒心を解くためでした。

公園から少し離れて時間が経つのを待っている間、男は住宅街の塀の陰に身を潜めていると、塀の隙間からあるものを視界にとらえました。それはその塀の向こう側にある一軒家の窓硝子が烈しく割られていたのです。

明らかに泥棒が侵入した形跡でした。男の意識はすでにその家の中にありました。辺りに誰もいないことを確認してから塀をよじ登り敷地内に侵入します。割れた窓硝子の側に来ると部屋の中が烈しく荒らされているのが見て取れました。おそらくもうすでに金目のものは取られてしまっているでしょう。自分がこの場にいるのを誰かに見られたら誤解されかねません。男はすぐにこの家から離れようと振り返ると、塀の内側に赤い色をした巾着袋が落ちているのを見つけました。

泥棒が落としていったのでしょうか。男はその巾着を拾い上げます。ずっしりとした重みがありました。感触から中身は小銭がたくさん詰まっているようです。しかし巾着の紐は固く結ばれていて、簡単には開きそうにありません。男はこの巾着の中身を確認するよりもこの場を離れるのが先だと判断し、急いで塀をよじ登り先ほどの公園まで戻りました。

慌てて戻ってきたせいか、野良猫たちが先ほどまでいた形跡はあるのですが、その姿は見えません。仕方なしに男は草むらの陰に身を潜め拾ってきた巾着を眺めます。たとえ小銭でも全て合わせれば数千円、もしかしたら数万円入っているかも知れません。そんな期待が膨らみます。

しかし男は巾着の結び目を解こうとしますが、かじかんだ指先ではなかなか解くことができませんでした。男は次第に苛立ちはじめ、もう底の方から袋を破いてしまおうと考えました。

そして持っていたナイフで巾着の底を破きました。すると男は「ぎゃあ!」と尻尾を踏まれた猫のような叫び声を上げました。
その巾着から出てきたのは、たくさんの鼠の死骸でした。

男がその後、警察の御用となったのは言うまでもありません。
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