十文字掌編小説ぶろぐ

べんべんとした日常に豊かな物語を。短くたって構わない。豊かなものでさえあれば。 不定期の更新です。月3回を目標に。

『驕りたかぶる』

私のクラスのJは、昼休みになると独り教室から出て行ってしまう。いつもどこに行っているのか気になりつつも、私は他の友人たちと遊んでいる。

私にとってJは中学に上がり初めて会話をした友人だった。その時の印象を一言で表すなら、陰鬱。背中に真っ黒な翼を生やしているといったような。翼と云っても、それで飛び立つというよりは、その翼で自らの身体を包み込んでしまうために生えているようなものだった。

ある日、私は午前中の授業中に体調を崩し、保健室で横になっていた。食欲もなかったので給食も食べず、昼休みになっても体調が回復しなかったので、保健の先生に言われ早退することになった。

友人に教室から鞄を持ってきてもらい帰宅する準備をしていると、保健室の窓からJの姿が横切るのが見えた。その時間は昼休み。窓の向こう側には、他の生徒が学校のグラウンドで遊んでいる姿も小人のように見えるが、それよりも少し大きくJの姿が見えた。

気になった私は、優れない体調を押してJの後をつけることにした。校舎を出てJの姿が消えた方向には駐輪場があるはず。

駐輪場には当然のごとく誰もいない。グランドから聞こえる生徒たちの声が、閑散とした駐輪場に虚しく響いている。

その一角にJはいた。Jは何をしているのだろうか。私の自転車もちょうどJの側にあったので、忍び足で近づくもの不自然である。気にしていないふりをしながら歩いて行くが、Jは全く私の存在に気づかない。

声をかけようか迷った。早く帰りたいという気持ちもあったが、Jが何をしているのかを知る方が、今の私にとっては優先順位が高かった。

背後からJの側に近寄る。するとさすがに私の存在に気づいたJは、何かを隠すようにして振り返り私を見た。その目は敵対する相手を見るかのように血走っていた。そしてJは言った。

「お前にはやらないから」

その言葉の意味を理解することができず、私は「なにを?」と問いかける。

「なにもかも」

私はJから何かを奪うつもりは毛頭ない。異様な殺気を放つJに対してこれ以上の問いかけは危険な香りがしたので、私は「なにもいらないよ」と素直に答えた。

するとJはほくそ笑み、再び私に背中を向けた。

その背中に生えていた翼は、両翼を多く広げて私との間に大きな壁を作った。ただよく見ると、少し震えていた。
スポンサーサイト
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。