十文字掌編小説ぶろぐ

べんべんとした日常に豊かな物語を。短くたって構わない。豊かなものでさえあれば。 不定期の更新です。月3回を目標に。

『カワナイウラナイ師』

「あなたは数ヶ月後、素敵な男性と巡り会うでしょう。大丈夫、安心して。ほら、この水晶を持っていれば、あなたを救ってくれるわ」


「なるほど……。確かにあなたの波動から影を感じるわ。この影……金銭面で何かお困りではないですかね」


「このカード。月は太陽と正反対の存在でありながら、恍惚と光を放つ。それはつまり、あなたは彼の存在がなければ、光り輝くことができないの。彼の手、離しちゃダメよ」


 水晶からの覗くその瞳は、真っ暗な深淵を映し出しているようだった。

 お客は皆、誰しも心に闇を抱えている。その闇に光を点すのが私の役目。光は何だって良い。太陽のような眩しく大きいものから、豆電球のようなものまで。お客が満足すればそれで良いのだ。

 今日もまた一人、闇を抱えたお客がやってきた。

「どうされましたか?」

「……実は、死のうと思うんです」

 闇が深い。だからといって私は動揺はしない。こういった闇深いお客も時々存在する。まだ、私に頼ってきてくれただけでも救いようがあった。

「そうなのですね。それでは、あなたのお悩み、解決まで導いて差し上げましょう」

 私のひと言で、お客の瞳に小さな小さな光が点った。

「これを、あなたに差し上げます」

 米粒ほどの小さな水晶の付いた指輪。これはとても値が張るもの。だからといって高額な価格で売りつける事はしないし、極めて闇深いお客だけに見せているものではない。

 私に相談しに来たお客、全てに対して見せている。

 とはいえ、この指輪にスピリチュアルな力はない。

 だからこそ、私は指輪を見せる際、こう言葉を付け加えるのだ。

「――大切なのは、あなた心にある信念です。それは人から売っても買ってもいけない。自分自身で作り上げ、一生大切にする。この指輪には、その信念を作りだし宿す力があるのです。もう大丈夫」

 いったい何が大丈夫なのか。お客は大抵そういう顔をする。

 そこで私は微笑むのだ。微笑むと言っても実際に笑うのではない。言葉で微笑むのだ。

「これは私からの気持ちです。あなたにこれが必要だと思うからこそ、差し上げるのですよ。私は、私に相談しに来てくださる方、皆さんに幸せになってほしいと心から願っております。だから信じてください。信じる力が指輪の本来の力を発揮する原動力にもなりますよ」

 お金は闇にまみれている。

 闇は闇を引き寄せ、深淵へと引きずり込む。

 私は商売をしているつもりはない。

 ただ、闇を恋しく思うだけ。

 だからこそ、私の元を訪れるお客は後を絶たない。
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