十文字掌編小説ぶろぐ

べんべんとした日常に豊かな物語を。短くたって構わない。豊かなものでさえあれば。 不定期の更新です。月3回を目標に。

『明けましての彼』

「おはよう」

 新年早々、私に目覚めの笑顔を見せてくれた彼。

 私にとって彼は、心を明るく照らすお日様のよう。

 何がいいかって、このくしゃっとなる笑顔だ。寝坊助の私をいつも笑顔で起こしてくれる。

「はい、コーヒー。そうだ、今日はご飯にする? それともトースト?」

 毎日朝食を準備してくれて、片付けや部屋の掃除、ありとあらゆる家事を全てこなしてくれる彼。私にはもったいないくらいだ。

「いつもの神社、やっぱり混んでるかな?」

 食卓に座りコーヒーの香りに酔いしれている私に、キッチンの向こうから彼は笑顔でそう言った。「そうかもね」と私も笑顔で答える。

 彼と一緒だったら何でもいい。そんな風に思わせてくれる。今の私は何不自由ない充実した生活を送っていた。これを世間では“リア充”と呼ぶのだろうか。しかし、それは意味を持たないただの言葉の暴力。嫉妬から生まれた虚勢。私は、その言葉をぶつけてくる人たちに言いたい。――ざまーみろって。

 私が彼のことを友人たちに話すと、「そんな彼氏いるわけない」とか「絵に描いたような理想的な彼は、どこで見つけたの?」とか色々聞いてくる。
 残念ながら、彼は実際に私の目の前にいる。そして彼は見つけたのではなく、作ったのだ。
 作ったと言っても、彼はロボットだったり、私の妄想の中の人物という訳でもない。実際に実在する本物の人間。

 出会った時の彼は、今の彼とは違った。私は彼を理想的な彼氏として、作り上げたのだ。

 どうやって作ったかって?

 あまり詳しくは言えないけど、ヒントは彼の心を奪うこと。脅迫したり服従させるような真似はしてはいけない。彼の心を少しずつ、でも確実に奪っていく。

「あ、これ言い忘れてたね。明けましておめでとう。これからもよろしくね」

 彼と出会って40年。彼の心を奪うのに明け暮れた毎日だった。
スポンサーサイト