十文字掌編小説ぶろぐ

べんべんとした日常に豊かな物語を。短くたって構わない。豊かなものでさえあれば。 不定期の更新です。月3回を目標に。

『十字路のカエル』

 雨上がりの午後。誇り高き旅人が林道を歩いていると、途中で看板の立つ十字路にさしかかりました。
 その看板には『右 沼地、左 行き止まり、直進 宿舎』と書かれていました。旅人はその案内に従いそのまま真っ直ぐ進もうとすると、ふと誰かに呼び止められました。

「お主、何者だ」

 驚いて旅人は辺りを見回します。しかし辺りには誰もいません。

「こっちだ。どこを見ている」

 再び声が聞こえたので、声のした方向を見ると、ちょうど看板が刺さっている地面の根元に、手のひらサイズのカエルが佇んでいました。旅人が疑いの目を向けると、カエルが口を開けて言いました。

「また間抜けな面だ」

「うわっ!」

 旅人は驚いて腰を抜かします。それを見て再びカエルは言います。

「お主の様なふぬけが、旅をしているなんてな。いいかこの先に宿などない。あるのは墓場だ。だから引き返しな」

 引き返せと言われても、旅人はここまでとても長い距離を歩いていました。なのでそれはできないと首を横に振ります。
 すると、カエルは呆れた様子で言いました。

「いいか、この先にあるのは朽ちた廃屋だ。それ以外何もない。それにこの先を進んだ者は二度と帰ってこなかった」

 その言葉に旅人は聞き返します。

「それじゃ、他の道の先はどうなんだ?」

「右の沼地は今じゃ蛇の住処になっている。人をも飲み込む大蛇だ。その大蛇に熟された人間は後を絶たない。そして右の行き止まりは崖だ。草木が生い茂っていて崖の先を見誤って滑落した人間を何度も見てきた」

 旅人はこういった話を何度も逸話として聞いたことがありました。
 岐路に立つ水先案内人は、通行人を陥れようとします。そのため他の道へは危険だと嘘をつき、通行人を誘導するのです。
 自分は騙されてはいけないと思い、旅人はカエルに質問を投げかけます。

「なら私はどの道を行けばいい?」

 するとカエルは前足を降りながら言いました。

「それはさっきも行っただろう。帰れ、もと来た道をだ」

 すぐにそれはおかしいと旅人は思いました。来た道はずっと一本道でした。分かれ道はここが初めて。このまま帰ったとしても、何もありません。陥れようとするなら、必ずどこかの道を勧めるはずです。
 このカエルの目的は何だろう、旅人は考えます。本当に身を案じて忠告しているのでしょうか。それともこの道の先にある何かを隠しているのでしょうか。旅人は考えたものの、はっきりとした答えは浮かばず、一か八かの賭に出ることにしました。。

「悪いが私は来た道を戻るわけにはいかない。この三本の道の中で最も謎な道は正面だ。お前はこの先の道にあるのは朽ちた廃屋と言い、この道を進んだ者は帰ってこなかったと言う。それは逆に帰ってこずとも済むということなのだろう。それに例え何が待っていようと、それが旅なのだから初めから覚悟はできている。鬼が出るか蛇が出るかだ」

 そう言って旅人、は看板に宿舎と書かれた道を真っ直ぐ進んでいってしましました。
 それを見送ったカエルは、つばを吐き捨てるかのように言いました。

「けっ、やっぱりああいう放浪者どもは、みんな何を言ったって聞かねえ。蛇の道は蛇、蛙の子は蛙、己の人生顧みることもせず、ただ前だけ向いてりゃいい気になりやがって」

 それからカエルは、地面に刺さっていた看板を抜いて、反対側の道にそれを指しました。すると、ちょうど旅人が進んだ道は帰り道になりました。そして旅人は二度とカエルの前には姿を現しませんでした。
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