十文字掌編小説ぶろぐ

べんべんとした日常に豊かな物語を。短くたって構わない。豊かなものでさえあれば。 不定期の更新です。月3回を目標に。

『臨場感と疲労感』

 このゲームは落とせない。
 ロスタイムは3分。ボールは我がチームの手中に収めている。

「よし! こっちによこせ!」

 蹴り上げたボールは、反対サイドへと宙を舞う。コート上のほぼ全員の視線がひとつになっている中、一人だけ全く違う方向へと視線を向ける者がいた。
 彼はひとりゴール前へと走る。一歩送れて相手チームの選手がそれに気づく。しかし彼はすでにトップスピード。走力のポテンシャルはそれほど変わりないが、彼に追いつくのは不可能だった。

「前だ!」

 柔らかいタッチでボールを足に吸い寄せ、そのまま駆け上がる。無謀なタックルが彼にとってはちょうどいい祭り囃子だった。

 ゴールキーパーと一対一になった時、彼は空間を支配した。

 左の軸足を地面に打ち付けるかのように芝生をえぐり、振り上げた右足は風を切っていた。そして、ボールを打ち付ける音がしたかと思うと、ゴールネットが激しく叫んだ。

 ゴーーール!!

 そこでようやく、試合終了のホイッスルが響いた。

「はあ、疲れたあ」

「おいおい、これぐらいでバテるなよ」

「何言ってんだよ。サッカーやってて疲れないほうがおかしいだろ」

「いやいや、それはお前が熱は入りすぎなんだよ。たかがゲームだろ」

 そう言って友人は、席を立ちトイレに入っていった。
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