十文字掌編小説ぶろぐ

べんべんとした日常に豊かな物語を。短くたって構わない。豊かなものでさえあれば。 不定期の更新です。月3回を目標に。

『硝子の中の女神様』

 たとえば、彼女が神様だったとしよう。
 彼女は僕にひとつだけ願いを叶えてくれると言った。
 僕はもちろん、彼女と幸せになりたいと願った。
 でも、彼女はその願いを叶えてはくれなかった。
 理由は、神様は誰のものでもないからだって。

 それなら、僕が神様だったとしよう。
 僕は自分が叶えたい願いを、自分で叶えようとした。
 しかし彼女には、僕の願いが届かなかった。
 理由は、彼女は神様の存在を信じていなかったからだって。

 だったら、神様は他の誰かということにしよう。
 僕は「神様なんて信じない」と彼女に言った。
 彼女は「じゃ、誰に願いを叶えてもらうの?」と聞いてきた。
 僕は頭を振って、彼女の言葉に爪を立てたんだ。

「自分で叶える」って。

 すると彼女は泣いた。
 その泣き声は、いつまでも続いた。何千里も先の丘まで聞こえているんじゃないかってぐらい。僕は泣かせるつもりで言ったんじゃない。でも、本気だった。それでも彼女は子供のように泣く。泣きたいのは僕のほうなのに。

 そして彼女は僕の前から姿を消した。

 僕にとって、彼女は神様だ。彼女は今、硝子の中に入っている。僕はその神様の前で、願うのではなく、感謝を伝える。

「ありがとう。ママ」って。
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