十文字掌編小説ぶろぐ

べんべんとした日常に豊かな物語を。短くたって構わない。豊かなものでさえあれば。 不定期の更新です。月3回を目標に。

『ペンディング探偵の定め』

 ワンルームの部屋。ローテーブルに二人がけのソファー。三段のカラーボックスが二つ。中には雑誌や漫画、小説に誰かの啓発本などが乱雑に収納されている。
 キッチンにはフライパンや包丁などの調理器具、また基本的な調味料もそろっていた。冷蔵庫の中身を拝見すると、それなりの自炊はするようにうかがえる。それから洗面所やお風呂場、隅々まで調べたが違和感を覚えることはなかった。

 探偵である龍穂さんは、改めてこの部屋の住人である月島に問うた。

「本当に、空き巣が入ったんですか?」

「空き巣じゃありません。ストーカーです」

「しかし、ストーカーになる人物に心当たりがないのでは、現状空き巣と表現せざるを得ないでしょ。それに万が一ストーカーが侵入していたら、物を盗むというより、何か物を残していくのが通例です。例えば盗聴器や隠しカメラなんかを」

「でも、私が大切にしていた写真が無くなっているんですよ。ただの空き巣が人の写真なんて持っていきます?」

 月島の言葉には一理ある。確かに空き巣が金目の物には一切触れずに、人の写った写真を持っていくのは異常だ。月島と面識のある人物が、月島に何らかの感情を抱いて犯行に及んだと推測するのが正しかった。

 すると、唐突に龍穂さんは言った。

「ところで、月島さん。お酒は毎晩飲まれます?」

「え、どうしてですか?」

「いやあ、先程冷蔵庫の中身を確認したところ、お酒のおつまみとなるような食材をずいぶんと買い込んであるのに、肝心のお酒が見当たらない」

「ああ、そ、それは友人がいつ遊びに来てもいいように、ストックしてあるだけです」

「そうですか。それじゃ、お酒はいつもご自身では買わないのですか?」

「……買いません。お酒は外で飲むことが多いです」

「わかりました。今回の一件は一度持ち帰らせてください」

 龍穂さんはそう言うと、足早に月島と別れたのだった。



「それで、結局また保留ですか?」

 私は事務所のソファーで横になる龍穂さんに向かって言った。すると龍穂さんはあくびを交じりに答えた。

「ふぁーあ。うん、あれは怖いよ。これ以上関わり合いたくないからね」

「でも、報告書には何て?」

「今回の一件は警察の見立て通り事故死だよ。何かの拍子に転倒して頭をぶつけた。月島さんはだいぶ酒癖が悪かった。それだけなら兎も角、自覚がないことが恐ろしい。写真も事故後、実際部屋の中で見つかったそうだ。刑事さんが言ってた」

「事故後、部屋は警察の方々が掃除されたんですか。あの大量のゴミを」

「そうそう、すごいよね。十文字ちゃんも一緒に中に入ってくればさ、あそこまで時間はかからなかった」

「ごめんなさい。どうしてもああいった場所は……」

「まあいくら十文字ちゃんでも、女の子にあの部屋に入れとは言えないか」

 龍穂さんはそう言うと、上着の内ポケットから少し歪な封筒を取り出した。

「この中に、その時の会話を録音したボイスレコーダーと、月島さんが盗まれたと勘違いしていた写真が入ってるから、後はよろしく」

 結局、最後は私がやるのか。
 龍穂さんから受け取った封筒の中身を確認すると、確かにボイスレコーダーと一枚の写真が入っていた。写真を取りだしてみる。そこに写っていたのは、笑顔で微笑む月島とテレビでよく見るとても美しい女性の笑顔だった。

 しかし、もし月島が事故で亡くならず、この件の解決を求めてきた時、龍穂さんは何て答えを出すのだろう。私には想像も出来ない。
 ただ、もうこの件は保留。そう龍穂さんが決めてしまったのだから、私はそれを受け止めるだけ。
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