十文字掌編小説ぶろぐ

べんべんとした日常に豊かな物語を。短くたって構わない。豊かなものでさえあれば。 不定期の更新です。月3回を目標に。

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『お涙頂戴お化け』

制服を着た警察官は、暗い路地裏で困り果てていた。
数分前、駐在していた交番に一本の通報が入った。少女が一人で座り込んでいると。

現場に向かうと、一人の中学生ぐらいの少女が、顔を自分の膝に埋めた状態で屈んでいた。時折、雨の中の捨て猫のように身体をビクつかせていたので、これはただ事ではないと判断し、優しく声をかけたのだった。

「君、大丈夫?」

「……あ、お巡りさん。来てくれたんですね」

「いったい何があったんだい。こんな時間にこんな所で?」

すると少女は、目線を下げ蚊の泣くような声で言った。

「母が亡くなったんです。さっき」

少女の言葉に、警察官は次になんと声をかけるべきか悩んだ。

「……そう、なんだ。でも、こんな所に一人でいたら危ないよ。君の家はどこ?」

「家に帰っても誰もいません。わたし、母と二人で暮らしてたので」

「それじゃ、親戚の方や友達は?」

すると今度は、両手で顔を覆いながら少女は言う。

「いません。母は一人っ子ですし、祖父母はとっくに亡くなっています。それに学校では虐められてるので友達なんか……」

「なら一度、交番に行こう。そこでゆっくり話を聞くから」

「だめ、動けない」

「え?」

「さっきストーカーに襲われて、だから呼んだんです」

濁流に紛れた不幸な水が彼女を襲ったようだ。警察官はとにかく彼女を保護し、心を休めてあげなければという使命感に苛まれる。

「そうか。なら僕が守ってあげるから大丈夫だよ。ほら、ここにいたらもっと危険だよ」

警察案が少女の側により、肩を支えて立ち上がらせようとした。

「いや!」

怯えたように少女は警察官の手を振り払う。これは重傷だ。慌てて警察官は、交番に残っていたもう一人の警察官に連絡を入れる。それからもう一度、少女に声をかけようした時、ふと何者かの存在に気づき振り返った。

「誰だ!」

ライトを当てると、一瞬だけ人影に反射したもののすぐに路地の角に消えてしまった。もしかしたら、少女を襲ったストーカーかも知れない。そう思った警察官は、すぐにそれを確かめようと歩き出すと少女がズボンを掴んで制止した。

「独りにしないでください」

確かに少女を一人にするのは危険だ。しかし、ストーカーを野放しにしていては、今後も彼女に危険が及ぶ。捕まえてしまえば、解決するかも知れない。

「大丈夫。すぐに戻ってくるから。それにあいつを捕まえない限り、また襲われるかも知れないだろ」

「あれは……彼氏です」

「彼氏? それじゃ、なんで彼に助けを呼ばないの?」

「彼氏がストーカーだからです」

なるほど、それなら納得がいく。しかし、そうなると彼女への不幸は、さらに嵩を増したことになる。
警察官は自分の存在を認識したことによって、少女の恋人、いやストーカーはこれ以上近づいてくることはないと判断した。

「今、あいつは私を見て逃げ出したから、今日はもうやってこないだろう。それにストーカーの身元が割れているならすぐになんとかなるよ」

「違います」

その少女の言葉に、警察官は首をかしげる。

「彼は、死んでるんです。だからあれは」

「な、何を言ってるんだい。だってさっき」

「あれはお化けです」

「お化け?」

「はい、お涙頂戴お化けって言われてます。人の涙が好物で、泣いている人の側に現れるんです」

話の路線がだんだんと怪しい方向に進んでいることに、警察官は少女の言葉に疑念を抱くようになっていた。
よくよく考えれば、今までの彼女の発言すべてに証拠はない。路地裏で一人、未成年の少女、涙を流し震えている、この要素が言葉に信憑性を与えていた。

「もしかして」と警察官が口を開こうとすると、少女は柏手を打つかのように両手をパンッと叩いた。

「ごめんなさい、お巡りさん」

その言葉を捨て台詞に少女はすっと立ち上がり、まるで親元に向かう子供のように軽い足取りで行ってしまった。

すると丁度入れ違いで、応援の警察官がやってきた。

「大丈夫ですか、先輩。何があったんですか?」

「ああ、ちょっと猫騙しにあってな」
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