十文字掌編小説ぶろぐ

べんべんとした日常に豊かな物語を。短くたって構わない。豊かなものでさえあれば。 不定期の更新です。月3回を目標に。

『星とアルカナ』

「王子は案外お暇なのね」

アルカナの家に王子がこっそり遊びに来ていた。

「まあ僕は、自由を愛しているからね。でも今日は、わざわざ足を運んだんだよ。もう少し歓迎してくれても良いと思うけど」

「あら、それは失礼。あたしは歓迎してますわ。あまり顔には出ないのよ」

「そうかい。なら、僕がここに来た理由もわかってるんだろう」

「ええ、この間のお礼をしに来たんでしょ」

王子は子供のような笑みを浮かべて言う。

「そうそう。そこでアルカナは何か欲しいものとかある?」

アルカナは呆れたように首を横に振った。

「そうか。それじゃ、アルカナって将来なりたいものとか夢みたいなものはあるのかい?」

将来。正直アルカナは、自分の将来のことについてはほとんど考えたことがなかった。

「うーん、そうね、じゃあ逆に何が良いと思う?」

すると、王子は腕を組みしばらく考える。

「そうだね。女王様っていうのはどうだい?」

「それは現実離れも甚だしいわ。だって王族は代々世襲制でしょ。あたしみたいな小市民には雲をつかむような話だわ」

「そんなことはないよ。君にだってなれるさ。今の女王様も元々は小市民だったんだから」

王子はそう言うと、なぜか椅子から立ち上がり窓際に立った。それを訝しむアルカナは、はっと何かを悟り言葉を返した。

「それってあなたなりのプロポーズのつもり?」

すると王子は、わかりやすく頭をかいて俯いた。

「もちろん、今すぐって訳じゃない。女王様にはまだまだ元気で座っていてもらいたいからね。ただ、いつかは僕がその椅子に座ることになる。でもあの椅子は一見豪華に見えても、僕にとっては拷問椅子と同じ。こればっかりは、理解してもらえないだろうけどね」

「そういうことなら、お断りするわ」

素っ気ないアルカナの言葉に、王子は慌てた様子で言う。

「どうしてだい? 女の子の憧れといったら女王様だろ。なろうと思ったってなれないのに」

「そうね。女王様は輝かしいお星様のようだと思うわ。お願い事も叶えてくれそうですもの。でもね、あたしはおばあちゃんと一緒にこの家で暮らしていたいのよ」

「はあ、もったいない。君こそ女王様に相応しいと思ったんだけどなあ」

そう言いながら王子は、諦めたかのように玄関扉のほうに向かって歩き出した。その後ろ姿に違和感を覚えたアルカナは、独り言のように声をかけた。

「お国は、あたしの力がお目当てなのかしら」

アルカナの言葉が、王子に聞こえたかどうかわからなかった。しかし、王子が扉を開けて振り返った時の笑顔がわかりやすく引きつっていたので、どうやら図星のようだった。
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