十文字掌編小説ぶろぐ

べんべんとした日常に豊かな物語を。短くたって構わない。豊かなものでさえあれば。 不定期の更新です。月3回を目標に。

『はじる』

「ねえ秀也、あんた彼女でもできたのかい?」

「え! いきなりなんだよ」

「だってさ、最近あんた携帯ばかり握っちゃって。携帯が恋人みたいにさ」

「はあ? ちげえよ、ゲームしてんだよ」

「ゲーム? あんたはゲームしながらニヤニヤするんかい」

「楽しいんだよ。悪いか」

「別に悪いなんて言ってないじゃん。……あれ、もしかして図星だった? そんなに強く否定するなんて、逆に怪しい」

「うるさい。お母さんには関係ないだろ」

「あらやだ。ふくれっ面なところを見るとますます怪しいわ」

「だから違うって」

「もう、恥ずかしがっちゃって。昔は真里ちゃんが好きって笑顔で言ってたくせに」

「そ、そんな昔のこと覚えてねえよ」

「でも、そのあんたも大人になったってことね。羞恥心は大人の証ね」

「それじゃ、お母さんも気をつけなよ」

「え、何を気をつけるって?」

「羞恥心を忘れないようにだよ。最近裸で家の中歩き回るんだから」

「……本当ね、思い返してみると色々心当たりがあるわ」

「呆けているわけじゃないんだから、忘れないこと。羞恥心。お母さんが子供に戻っちゃったら、困るのはこっちなんだから」

「そうね。気をつける。――って上手く話すり替えたわね」

「お母さん。遠慮ってのも大人の証じゃないかな」
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