十文字掌編小説ぶろぐ

べんべんとした日常に豊かな物語を。短くたって構わない。豊かなものでさえあれば。 不定期の更新です。月3回を目標に。

『嘘を知る子供』

今回のオマージュは、イソップ寓話『嘘をつく子供』です。


「ガオー」

着ぐるみをかぶり子供たちの相手をする。この仕事を続けてもう十年が経つ。

これまでも様々な子供たちと出会ってきたが、私にとって最も印象に残っている子供がいる。少年の名前はわからない。だけどその少年が私を変えてくれたことに間違いはない。

その日はちょうど狼の着ぐるみを着ていた。狼といってもリアルなものではなく、かわいらしい子供受けを狙ったデザインのもの。

それを見た子供は、触ってきたり一緒に写真を撮ったり、時には怖がる子供もいたが、多くは無邪気に接してくれた。

しかし、その少年は違った。私の目の前に突然現れると言ったのだ。

「嘘つきおじさん」

近頃の子供はませているといった第一印象だった。着ぐるみの中には汗だくのおじさんが入っている。その事実を承知の上で接してくる子供は、数は少ないが他にもいた。しかしその少年は違う。着ぐるみの中にいる私、いや、それ以外の何かを見つめている瞳がそこにあった。

「ねえ、おじさんはどうして嘘をついてるの?」

嘘?

私は内心首を傾げた。偽りの身を纏い、姿を変え変装しているといえばしている。ただ、偽ってはいるが、嘘をついているということとは少し違う。そういう認識だった。

私は辺りを見渡す。この少年の親らしき人物はいない。もちろんこのまま少年の問いに答えることは出来ない。契約で「ガオ―」という台詞しか話してはいけなかったからだ。
ひとまず私はその少年を避けるようにして移動する。しかし、その少年はぴったりと私の後をついて来ていた。

それがあまりにもしつこかったので、私は人気のない場所まで移動して、少年と向い合った。そして狼の頭の部分を取って見せた。

「ほら、これで満足かい? 君の言ったとおり私はおじさんだ。これでもう嘘つきとは呼ばないでおくれよ」

すると少年は被りを振って言った。

「その頭についてるものも外さなきゃだめだよ」

「……悪いが少年。私は狼おじさんだ。それはできない」

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