十文字掌編小説ぶろぐ

べんべんとした日常に豊かな物語を。短くたって構わない。豊かなものでさえあれば。 不定期の更新です。月3回を目標に。

『みにくい真昼の子』

今回は、『みにくいアヒルの子』ではなく、『みにくい真昼の子』です。


子どもが大好きな私は、早く自分の子どもが欲しいと思っていながらも、現実問題そう簡単にはいかず、そのもやもやをある毎日の行動で解消していました。
それは近所にある幼稚園の周りを散歩することでした。遠くからではあったのですが、子どもたちが外ではしゃぐ笑顔や甲高い声を聞くだけで、仕事のストレスも解消できるのです。だから仕事の休みの日には欠かさず、金網越しに園児たちを眺めていました。

そんなある日の昼下がり、私がいつものようにその幼稚園の前を通ると、ちょうど木陰に隠れるようにして一人の園児が金網を背に座り込んでいました。他の園児たちは、園内にある遊具や先生たちと楽しそうに遊んでいるにも関わらず、その子はぽつねんとしています。気になった私は、声をかけてみました。

「どうしたの君?」

私の声に心底驚いたのか、その園児はまるで幽霊でも見たかのような表情で振り向き身体をびくつかせました。

「あ、ごめんね。驚かすつもりはなかったんだけど」

園児は私のことを見るなり、金網に近づいてきて私の顔をじろじろと見つめてきました。その様子に私が首を傾げていると、唐突にその園児が言いました。

「おまえ、けっこうブサイクだな」

「なっ!」

混じり気のない園児のストレートな言葉に一瞬面食らった私は、おそらく酷い顔をしていたことでしょう。言葉を返すこともできません。
私が今まで生きてきた人生の中で、面と向かって自分の顔の評価をもらったのは初めてでしたが、自分の顔にはそこそこ自信もありました。だからこそ、その言葉は私に精神的な動揺を与えました。
ただ、幼い子にはそう見えたのかも知れません。それを素直に言っただけのこと。そこで反抗するのは大人のすることではありません。

しかし園児はその後すぐに別の言葉を発します。

「それに、つまらない目だね」

園児はそう言うと、こちらが言葉を返す暇なく、まるで忍者のように他の園児の衆に中に紛れて見えなくなりました。


なんだか、言われたままで終わるのは、妙に複雑で気分の悪いものでした。それに最期の言葉の真意についても気になります。だからそれからの日々は、幼稚園の側を通るときには必ず、あの時の園児を捜すことに集中しました。しかし、あの園児は二度と同じ場所に姿を見せず、園児の衆の中から捜そうとしても、全く見つかりませんでした。

そういえば、他の園児には必ず付いている名札が、あの園児にはなかったように思います。
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