十文字掌編小説ぶろぐ

べんべんとした日常に豊かな物語を。短くたって構わない。豊かなものでさえあれば。 不定期の更新です。月3回を目標に。

『似非な粋が枕籍する夢枕』

公園を二人で散歩をしているときに、普段は無口な彼がさりげなく口からこぼすようにこんな話をしてきた。

「あの花の名前は、日本水仙だね」

急にどうしたの? と喉元まで出かかったのだが、彼の不自然な遠い眼差しに、その言葉を飲み込んだ。

「水の仙人だから水仙。ふふっ、なんか笑っちゃうよね。花に仙人って名前つけるなんて」

どこがおもしろいのか、私にはちょっと理解できなかったので、首を傾げて反応する。しかし彼は私の方に一瞥もくれず話し続ける。

「由来については色々と逸話があるみたいだけど、だからって仙人じゃなくてもね。それに日本水仙の球根は有毒なんだよ。神経を麻痺させちゃうんだ。それに日本水仙の花言葉は《うぬぼれ》。誰がどうしてそんな花言葉をつけたんだろう」

「ねえ、どうしたの?」我慢ができなくなった私はそこで問い詰める。

「え、ああごめん。これ、全部請け売りなんだ。それにまだもう少し続きがあるから」

彼はそう言うと、その水辺に生える日本水仙の近くまで行き膝を曲げた。

「なんか、かわいそうだなって思うんだ。人間に勝手に名前とか意味をつけられて。この世に或る全てのものには意味があるけど、それは意味のないものに人が意味をつけたがるからなんだよ。人は昔から、意味のないものに対して不思議と虞を感じるんだ。だから未確認生命体とかっていうのは、その対象として祭り上げられることが多いのかも知れない」

そこまで言うと、彼は立ち上がり私の方に向き直ると、徐に鞄の中から一冊の本を取り出した。

「これの中に書いてあった」

「それって小説?」

「うん。いつもこれを枕元に置いてるんだ。大好きな本だから」

すると彼は再び鞄の中を探り始め、そこから小さな何かを出すのと同時に言った。

「僕らの関係にも、そろそろちゃんとした意味をつけようかなってね」
スポンサーサイト