十文字掌編小説ぶろぐ

べんべんとした日常に豊かな物語を。短くたって構わない。豊かなものでさえあれば。 不定期の更新です。月3回を目標に。

2017年05月の記事

『兄弟』

 ※※※

 強くて格好いい、僕のお兄ちゃん。

 僕ら兄弟は、生まれた時からずっと一緒に過ごしている。

 兄ちゃんは物知りで何でも知ってるから、僕にとっては先生でもあるんだ。だからといって、喧嘩をしないわけじゃない。

 僕がわがままなことを言うと、ちゃんと叱ってくれる。その時は、いつも僕はふてくされるのだけれど、僕もすぐに反省して謝る。最近は少なくなったけどね。

 そんな頼れるお兄ちゃんにとっても苦手なことがあるらしい。でも、それが何なのか、僕は知らない。
 いつも「誰にでもひとつやふたつ、苦手なものはあるもんさ」と言っているから、お兄ちゃんにもあるんだなって、僕は思っているんだけど、僕はそれを聞こうと考えたことはない。

 だって、お兄ちゃんが苦手なもの、それは僕にとっても絶対に苦手なものに決まっているから。それが兄弟ってやつでしょ。

 ただ、ある日お兄ちゃんが何かを悟ったかのように、僕に話してきた。

「なあ、弟よ。お前は将来、何かしたいことでもあるのか?」

「将来? あまり考えたことがないな。お兄ちゃんとずっと一緒にいられれば、それで十分だよ」

 僕がそう答えると、お兄ちゃんは小さく笑った。

「そうか。お前はやっぱりかわいいな。……なら、問題ないか」

「問題ない?」

 僕が首をかしげた瞬間、ふっと身体が軽くなった気がした。

 世界が宙を舞っている。それでも、僕とお兄ちゃんが離ればなれになることはない。僕らは繋がっているから。

 だから僕は安心していた。それに回っている世界の中でも、お兄ちゃんの表情だけは、はっきりと見えていたから。
 でも、その表情は、とても哀しそうだった。

「弟よ。俺たちはずっと一緒だ。それだけは例え何があっても――」

 お兄ちゃんの言葉の意味が、その時の僕にはよくわからなかった。


 ※※※


「好き嫌いはダメよ」

 お母さんにそう言われ、ぼくはふてくされた。

 食後に頼んだパフェ。そこには必ずと言って良いほどサクランボが入っている。ぼくはそれが好きじゃなかった。

 すっぱいし、ほとんど種。鳥が食べるものだろうって。

 ただ、今回注文したパフェには、二つの実の付いたサクランボが添えられていた。

「じゃ、俺にくれよ」

 隣に座っていた兄がそう言うと、間髪入れずにパフェの器に残っていたサクランボをひょいとつまみ上げて、口の中に入れてしまった。

 いくら嫌いなものでも、自分のものを兄に横取りされたのかと思うと、ちょっと気分が悪い。

 兄は自分勝手で、自分の思い通りに行かないと機嫌を損ねる。醜く太った頭の悪い兄だった。

 きっとぼくらは将来、一緒に暮らすことはないだろう。
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