十文字掌編小説ぶろぐ

べんべんとした日常に豊かな物語を。短くたって構わない。豊かなものでさえあれば。 不定期の更新です。月3回を目標に。

2016年12月の記事

『ペンディング探偵の代役』

 今日も龍穂探偵事務所に、一人の依頼人が訪れた。

 依頼人の名は、秋吉充(あきよしみつる)57歳。地元で板金加工業の工場を経営している社長さんだ。雪だるまのような体型に、屈託のない笑顔。社長というよりは、工場長のような雰囲気を出している。

「すみません、もう少々お待ちください」

 秋吉に三杯目のお茶を差しだし、私はすぐに時計を見た。午後七時を回った。この龍穂探偵事務所に龍穂さんはいない。私が朝いつも通り出勤すると、デスクの上に『午後には戻る』と書き置きが残されており、私は深いため息をついた。
 今日は元々休みというわけではなく、来客の予定も、この秋吉を含め三件入っていた。その内の二件は、調査報告の受け渡しだったので私ひとりでもこなせたが、秋吉は今日依頼内容をうかがう予定だった。それは流石に事務員の私ではできない。龍穂さんには昨日ちゃんと確認した。だから秋吉が来訪する午後三時には、戻ってくるだろうと油断していたのが間違いだった。

 もう、秋吉は四時間近くも待っていることになる。その間、顔色ひとつ変えずに事務所のソファーに腰掛けている秋吉のことを、私は仏様か何かと思うようになっていた。
 当然私も何もせずにいるわけにもいかず、龍穂さんに代わって、先に依頼内容をうかがってはいた。

 何でも、長年連れ添った奥さんが、不倫をしているのではないかと疑っているようだった。
 最近、嬉しいことに大きな仕事が入り、休日を返上して働いていた。家に帰ることも少なく、奥さんとは週に一度顔を合わせる程度。その奥さんは10歳も年下ということもあり、家にいない間何をしているかさっぱりわからない。そんなある日、奥さんの部屋から見覚えのない男性物の靴下を見つけた、と言う。
 それぐらいで、不倫を疑ってしまうのも早計だが、依頼内容は不倫の証拠を見つけるのではなく、不倫の事実の有無を確かめること。見つけた靴下が、奥さんの知人が忘れた物かもしれない。それに秋吉はとても奥さんを愛していた。思い出話も話の合間に色々と教えてくれた。それはまるで理想の夫婦といえる内容。とはいえ、一度心についたきな臭い煙は、土をかけて消してしまわない限り、ゆっくりと眠れないと秋吉は語った。

「ところでお姉さんは、おいくつですか?」

「え、私ですか? ……28ですけど」

「……そうですか」

 いったいこの人は本当に困っているのだろうかというぐらい、秋吉の態度は落ち着きを払っていた。ただ、慌てたところで犯人が見つかるわけもない。そう考えると、秋吉は肝の据わった人間だ。

「結婚は?」

「え、いやまだですけど」

 あまり依頼人とプライベートなことについては話したくない。しかし、話の接ぎ穂に困っていたので答えるしかなかった。

「結婚というのはよく、新たな人生のスタートと言いますが、あれは全く違うと思いませんか?」

「ん? んん、どうなんでしょう……」

 私が返答に困っていると、秋吉は小さく笑った。

「結婚というのは、人生を一旦休憩することなんです。公演のベンチに腰掛けるような、そんな感じ。親に育ててもらった人生は、全速力で走っていた。独り立ちして社会で働いている人生は、慎重にでも確実に前に進んでいた。そして最愛の伴侶と一緒に生活をする人生は、流れを一度落ち着かせ穏やかにする。つまり結婚は、人生の休憩地点。そこから新たな道へ出発するも良し。諦めて戻るも良し。……私はそんな休憩地点に腰を下ろしたままだった」

「ただいま」

 するとタイミング悪く、龍穂さんが帰ってきた。
 秋吉の話の続きも気になったが、まずは文句を言わなければ、私の腹の虫がおさまらない。

「ちょっと龍穂さん! 今まで仕事ほったらかしてどこに行ってたんですか!?」

「ああ、秋吉さんありがとうございました」

 龍穂さんは私に一瞥もくれずに秋吉に頭を下げると、「いえいえ」と秋吉は首を振りソファーから腰を上げた。

 その予定調和のような様子に、まったくついて行けないでいた私に対して、秋吉は申し訳なさそうに言った。

「実は、家内は3年前に亡くなっているんです。騙すつもりはなかったんですが、依頼人役として何か用意しておかないと話も膨らまないと、龍穂さんに」

「龍穂さんに」というひと言で、今回の全てを龍穂さんが用意した茶番だったことに気づかされた。

 全ては龍穂さんが怠慢のため。私にそれに気づかせずに、秋吉を使って店番をさせていたのだ。秋吉が役目を終えて帰宅した後、当然ながら、私は文句をぶつけた。

「ここまでするほどの用事って何なんですか?」

 すると龍穂さんは、コーヒーを片手にため息交じりに言った。

「まさか十文字ちゃん、おれが仕事さぼって遊んでたなんて思ってないよね。ちょんと仕事だよ。――ただ、あれ、秋吉さんも話し相手がいなくて寂しいって、言ってたからさ」

結局、この日龍穂さんが何をしていたのか、未だにわからない。ただひとつ言えるのは、私は龍穂さんにいいように使われているってこと。
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『活動報告』

ご無沙汰しております。十文字兄人です。

師走らしい忙しい今日この頃、皆様いかがお過ごしでしょうか。

さて、まず最初に謝罪をさせてください。約一ヶ月ほどの間、ぶろぐ更新できずに申し訳ございませんでした。
何を隠そう、私個人的な事情もあいまって、なかなか創作活動ができずにおりました。(現在進行形)

言い訳をすれば事足りないのですが、ここでそれを述べても致し方ありません。
今月も半月を切り、更新できるか否かという状況です。

そこで今回は、私がブログ外での創作活動に関して、宣伝用の記事とさせていただきます。
掌編小説以外にも、短編やイラストなんかも描いておりますので、ぜひ皆様には一読のことをよろしくお願い致します。


では始めに、「創作サークル綾月」での活動について

当サークルでは、主に小説を提出し、HP等に載せていただいております。
最初の作品はこちら
『三人日より』
この作品は、サークル内での新人戦と題して行われた企画です。
テーマは「
とある中学生三人の卒業式後の様子を描いた作品。掌編小説となっております。
――不思議な世界観を楽しんでもらえたら、ありがたいですね。

続きましては
『星の願いを叶える狼』
この作品は、綾月シェアードワールドと題して、ひとつの世界「綾月町」を舞台に、メンバーそれぞれが物語やイラストなどを書くというものでした。
私が担当したのが、ミステリーのジャンル。
実はこの作品には、以前ここ商戦小説ぶろぐにて描いた『ペンディング探偵の生き甲斐』の登場人物、龍穂光と十文字薫をメインキャラクターとして採用しました。
こちらは、約2万字の短編小説となっております。
頑張ってミステリー色を出すため、綾月町立図書館の架空の施設の館内図を作ったので、それだけでも見てください。
――探偵事務所にやってくる依頼人の少年。少年は妹を捜していた。

最後にこちら
『キングクリスマスケーキ』
この作品は、先日公開されたばかり。創作サークル綾月での綾月ショートSS企画と題して、各々がSS(ショートショートやショートスケッチ)をテーマに沿って書きました。
今回のテーマは「クリスマス」
私は掌編小説を書きました。
――クリスマスの夜。はしゃいだ気持ちを落ちつかせてくれる物語となっております。


次に、私が蓼食う虫の本サイトにて記事を書かせていただいたものです。
『比喩は絶妙な調味料!あなたの小説にスパイスを効かせる方法』
比喩表現について、ご参考程度に書かせていただきました。
今後もこちらのサイトに記事を書かせていただくかもしれません。その際はよろしくお願い致します。


えっと、その他にも色々創作活動はしてきましたが、今回はここまでにします。
今月中に一作品でも、多く作品を書けることができるように頑張りたいです。
もちろん、ご感想ご意見、その他リクエスト・質問等はいつでも受け付けておりますので、どうか今後ともよろしくお願い致します。
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