十文字掌編小説ぶろぐ

べんべんとした日常に豊かな物語を。短くたって構わない。豊かなものでさえあれば。 不定期の更新です。月3回を目標に。

2016年10月の記事

『十字路のカエル』

 雨上がりの午後。誇り高き旅人が林道を歩いていると、途中で看板の立つ十字路にさしかかりました。
 その看板には『右 沼地、左 行き止まり、直進 宿舎』と書かれていました。旅人はその案内に従いそのまま真っ直ぐ進もうとすると、ふと誰かに呼び止められました。

「お主、何者だ」

 驚いて旅人は辺りを見回します。しかし辺りには誰もいません。

「こっちだ。どこを見ている」

 再び声が聞こえたので、声のした方向を見ると、ちょうど看板が刺さっている地面の根元に、手のひらサイズのカエルが佇んでいました。旅人が疑いの目を向けると、カエルが口を開けて言いました。

「また間抜けな面だ」

「うわっ!」

 旅人は驚いて腰を抜かします。それを見て再びカエルは言います。

「お主の様なふぬけが、旅をしているなんてな。いいかこの先に宿などない。あるのは墓場だ。だから引き返しな」

 引き返せと言われても、旅人はここまでとても長い距離を歩いていました。なのでそれはできないと首を横に振ります。
 すると、カエルは呆れた様子で言いました。

「いいか、この先にあるのは朽ちた廃屋だ。それ以外何もない。それにこの先を進んだ者は二度と帰ってこなかった」

 その言葉に旅人は聞き返します。

「それじゃ、他の道の先はどうなんだ?」

「右の沼地は今じゃ蛇の住処になっている。人をも飲み込む大蛇だ。その大蛇に熟された人間は後を絶たない。そして右の行き止まりは崖だ。草木が生い茂っていて崖の先を見誤って滑落した人間を何度も見てきた」

 旅人はこういった話を何度も逸話として聞いたことがありました。
 岐路に立つ水先案内人は、通行人を陥れようとします。そのため他の道へは危険だと嘘をつき、通行人を誘導するのです。
 自分は騙されてはいけないと思い、旅人はカエルに質問を投げかけます。

「なら私はどの道を行けばいい?」

 するとカエルは前足を降りながら言いました。

「それはさっきも行っただろう。帰れ、もと来た道をだ」

 すぐにそれはおかしいと旅人は思いました。来た道はずっと一本道でした。分かれ道はここが初めて。このまま帰ったとしても、何もありません。陥れようとするなら、必ずどこかの道を勧めるはずです。
 このカエルの目的は何だろう、旅人は考えます。本当に身を案じて忠告しているのでしょうか。それともこの道の先にある何かを隠しているのでしょうか。旅人は考えたものの、はっきりとした答えは浮かばず、一か八かの賭に出ることにしました。。

「悪いが私は来た道を戻るわけにはいかない。この三本の道の中で最も謎な道は正面だ。お前はこの先の道にあるのは朽ちた廃屋と言い、この道を進んだ者は帰ってこなかったと言う。それは逆に帰ってこずとも済むということなのだろう。それに例え何が待っていようと、それが旅なのだから初めから覚悟はできている。鬼が出るか蛇が出るかだ」

 そう言って旅人、は看板に宿舎と書かれた道を真っ直ぐ進んでいってしましました。
 それを見送ったカエルは、つばを吐き捨てるかのように言いました。

「けっ、やっぱりああいう放浪者どもは、みんな何を言ったって聞かねえ。蛇の道は蛇、蛙の子は蛙、己の人生顧みることもせず、ただ前だけ向いてりゃいい気になりやがって」

 それからカエルは、地面に刺さっていた看板を抜いて、反対側の道にそれを指しました。すると、ちょうど旅人が進んだ道は帰り道になりました。そして旅人は二度とカエルの前には姿を現しませんでした。
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『告白のお礼に』

 先日は、こんな私に告白をしてくれてありがとう。好きな人に告白するって、相当結城がいるもんね。だからあなたが私に告白してくれたこと、本当に嬉しかった。
 でもね、私にとっては寝耳に水。まさかあなたに告白してもらえるなんて思ってもみなかったの。だからあの時は、すぐに返事ができなかった。嬉しさよりも驚きが多くて、頭の中が真っ白だった。悪いとは思ったのよ。でも一度、自分の中で整理してから答えを出そうって。

 思い返せば、小さいころからあなたは私に夢中だった。よくある話ね。好きな女の子に対して汚い言葉を言ったり、物を取ったりしていじめるやつ。そのせいで私はあなたのことばかり考えさせられたわ。まあ当時は、ムカつくっていう気持ちが一番だったけど。
 私も仕返しをしたのは覚えてる? ああでもあなたは鈍感だから、私の仕返しには気づいていなかったわね。消しゴムが無くなったり靴が汚れていたりしていたのは、私の仕業よ。

 それにあなたは普段から私のことを見てたでしょ。気づいていないと思ったら大間違いよ。他のみんなと一緒にいる時だって、瞬きする度に私に視線を送ってた。それに気づいていないふりをするのも大変だったんだから。だってあなたは、私と目線が合うとすぐ逸らすでしょ。私はあなたの視線が痛いほど嬉しかったのよ。あなたの視線は、ゆっくりとでも確実に私の皮膚を破いて入ってきていた。そして不思議な液を私の体内に注入するの。
 あれって何? その度に身体が熱くなるのよ。

 そんな私にあなたは告白した。あなたは自分の中に溜まっていたものを、一気に吐き出したんだから気分良いのかしら。それとも返ってこない返事にもどかしく煮えたぎっているのかしら。
 どちらにせよ、もうどうでもいいわね。

 私がこうしてあなたへの返事を封書にしたためているのは、これからもずっと残しておきたいからよ。
 どうしてかって。それは今、あなたの寝ている傍で書いているからよ。
 驚いた?
 ごめんなさい。
 告白のお礼に、これだけは置いておくわ。大切にしてね。
 かしこ 宮西静子より


 彼女からの手紙と一緒に置いてあったのは、小さく寝息を立てる彼女自身だった。

『三太郎』

 さて、今回は日本昔話にある『~太郎』のオマージュです。


 とある村に三人の兄弟が住んでいました。その三兄弟に両親はおらず、三人が手分けして仕事や家事をこなしていた。しかし三人には、とても厄介なことがあったのです。
 それは、三人の名前が「太郎」と同じ名前だったのです。

 次男の太郎は他の二人のことを「お兄さん」と「弟」と呼びます。一番下、末っ子の太郎は「お兄ちゃん」と「二番目のお兄ちゃん」と、二人とも上手く使い分けていました。

 ただ、最も苦労しているのが長男の太郎です。下の二人はともに弟。「弟」や「太郎」と呼んでも、すぐにどちらを呼んだのかわからず、決まって意図した相手に声をかけられませんでした。
 そこで長男は兄弟で話し合いをすることにしました。

「いいか、お前ら。俺たち兄弟は皆“太郎”という名前だ。これは大変重要な問題である。今までお前ら二人は上手く過ごしてきたのかもしらんが、俺にとっては極めて不愉快だった。それにだ。百歩譲って俺はいい、しかし周りの人間からしたら、兄弟同じ名前というのは、実にややこしいはず。故に、俺から名前の変更案を提言する」

「え、名前を変えるだって!」と次男。

「今更、変えたら友達になんて説明すれば良いんだよ」と三男。

 どうやら、二人は名前を変えることに否定的でした。それでも長男は押し切ります。

「ええい! うるさい。もう俺の中では決めてある。大丈夫、そんなに突飛な名前にするつもりもない。まず長男である俺が“一太郎”。次男であるお前が“二太郎”。そして三男であるお前が“三太郎”だ」

「ええ、なんか俺の名前ダサいよ」と次男。

「それは単純すぎるよ。折角なら、潤とか翔とか格好いい名前にしようよ」と三男。

 わがままを言う二人に、長男は用意していた奥の手を出すことにしました。それは、村の村長に説得してもらうことでした。
 長男は二人を村長のもとに連れて行き、名前を変えたいという相談をしました。すると、村長は言ったのです。

「お主ら兄弟。生まれた時より名前が太郎というのは、デタラメじゃ」

「え!」と兄弟が声を合わせます。

「もとより、お主らは森で拾った子。名前など無かった。だから我々からしたら、全員太郎のほうが都合が良いんじゃ」

「都合が良いって……?」

 長男が思わず声を漏らすと、村長は一度咳払いをしました。

「なに、不安に思うことはない。お主らは今まで通り太郎のままで過ごしてればいい。この村に来て、面倒を見てやった恩を忘れるんじゃあないぞ」

 それから村長は、兄弟を言葉巧みに説得し家に帰しました。静かになった家で、村長はひとり呟きます。

「もうそろそろ限界じゃの。明日にでも、飼い主を探しに行くとするか」

 そんな村長の手には、バツ印のついた名簿が握られていました。

『臨場感と疲労感』

 このゲームは落とせない。
 ロスタイムは3分。ボールは我がチームの手中に収めている。

「よし! こっちによこせ!」

 蹴り上げたボールは、反対サイドへと宙を舞う。コート上のほぼ全員の視線がひとつになっている中、一人だけ全く違う方向へと視線を向ける者がいた。
 彼はひとりゴール前へと走る。一歩送れて相手チームの選手がそれに気づく。しかし彼はすでにトップスピード。走力のポテンシャルはそれほど変わりないが、彼に追いつくのは不可能だった。

「前だ!」

 柔らかいタッチでボールを足に吸い寄せ、そのまま駆け上がる。無謀なタックルが彼にとってはちょうどいい祭り囃子だった。

 ゴールキーパーと一対一になった時、彼は空間を支配した。

 左の軸足を地面に打ち付けるかのように芝生をえぐり、振り上げた右足は風を切っていた。そして、ボールを打ち付ける音がしたかと思うと、ゴールネットが激しく叫んだ。

 ゴーーール!!

 そこでようやく、試合終了のホイッスルが響いた。

「はあ、疲れたあ」

「おいおい、これぐらいでバテるなよ」

「何言ってんだよ。サッカーやってて疲れないほうがおかしいだろ」

「いやいや、それはお前が熱は入りすぎなんだよ。たかがゲームだろ」

 そう言って友人は、席を立ちトイレに入っていった。
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