十文字掌編小説ぶろぐ

べんべんとした日常に豊かな物語を。短くたって構わない。豊かなものでさえあれば。 不定期の更新です。月3回を目標に。

2016年04月の記事

『ウワバミロボット』

ある小さな村に、それはそれは恐ろしい大蛇がいました。
しかし、誰もその大蛇の姿を見たことがありませんでした。それもそのはず、その大蛇を見たものは皆、ぱくっと飲み込まれてしまっているのです。血痕や叫び声すら残りません。なので大蛇が通った後には、車一台分ほどの這った跡しかありませんでした。

そこで一人の猟師が大蛇退治に名乗りを上げました。そして猟師は夜中、一人で大蛇がよく現れる森の中へと向かいました。

すると早速雑木林の影に、月明かりに反射した大蛇の尾を見つけました。眠っているのでしょうか。まだ、大蛇のほうは猟師に気づいていません。
猟師は気づかれないように、ゆっくりと忍び寄ります。

だんだんと近づくに連れ、その大蛇の全貌が見えてきました。

「なんだ、これは」

何度も目をこする猟師。その目の前にいた大蛇の身体は、銀色の金属で覆われていました。

恐る恐る猟師は大蛇の身体に触れます。本物の鉄、それはまるで死んでいるかのように冷たいものでした。
すると、どこからともなく声が聞こえてきました。

「今度は何の用だ?」

その声に驚き、猟師は腰を抜かしてしまいました。しかし、すぐに答えます。

「お前が、人を襲うウワバミか!」

「いかにも。しかし、ワシは人を襲ったつもりはない。ただ、空腹を満たすために目の前にいた人間を熟したにすぎない」

「うるさい! バケモノめ!」と猟師は握りしめていた猟銃を構え、大蛇に向かって放ちました。
しかし、金属の身体を持つ大蛇には、全く猟銃の弾は効果がありません。

「ワシに楯突こうとする人間は初めてだ。皆、ワシの姿に驚いて、半べそをかいている奴らばかりだったからな」

猟師も使い物にならなくなった猟銃を投げ捨て、地べたに這いずりながら後ずさりをします。

「お、お前は、どうしてそんな身体をしているんだ?」

すると大蛇は答えます。

「ワシは人間に作られたのだ」

「人間?」

「そうだ。ただワシは未完成のまま世に放たれた。身体の中も金属でできているせいか、いくら人間を熟しても、まったく満足できないのだ」

「それじゃ、まだ飲み込まれた人間たちは、まだお前の腹の中で生きているのか?」

「さあな。ただ、吐き出すわけにはいかん。ワシは人間を飲み込んでこそ、その存在意義を成していると実感できる。そう教えられている」

わずかな希望を抱いた猟師が、まだ腹の中にいる人間を助け出す良案を思いつきました。

「なら、その存在意義を満たしてやろう。その代わり、今まで飲み込んだ人間たちを吐き出してほしい」

「なに、それは本当か?」

「ああ、もちろん」

「わかった。なら明日までに用意しろ。ただもしできなければお前を食ってやるからな」


そして翌日、猟師は約束通りに大蛇の前にやってきました。

「持ってきたのか?」

大蛇の言葉に猟師は頷きます。

「これを飲め。ただその前に、腹の中の人間を出してもらわなくては困る。これを飲んでからでは、中の人間が死んでしまうかも知れないからな」

「よし、わかった。しかしもし、ワシが満足しないものだったら、お前もろとも村の人間すべてを飲み込んでやるからな」

大蛇はそう言って、大きな口から次々と人間を吐き出していきます。そしてすべてを出し終えると、猟師が用意したポリタンクをがぶがぶ飲み始めました。
その時でした。一瞬の隙を突いて、猟師が持っていた火種を大蛇の口の中めがけて投げ込みました。

「あ、アツい! アツい!」

大蛇は瞬く間に大きな火柱となりました。そう、大蛇が飲んだのは灯油でした。

「見たかバケモノめ! 溶けてしまえ!」

すると、大蛇は最期の力を振り絞ります。

「人間め、謀ったな! くそっ、こうなったら」

大蛇はその大きな身体を素早く回転させ、森の木々を炎で包み込みました。一度広がった炎はみるみるうちに人々が住む村まで襲い、村すべてを消化させてしまいました。
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『塔とアルカナ』

おばあちゃんに頼まれた買い物をした帰り、アルカナはとても気になるものを見つけて足を止めた。

前に瞑想中に見た手品師の家。外観は他の民家と変わらない。看板も何もないので、そこが手品師の家と知らなければ、誰も足を踏み入れる事はないだろう。

アルカナは吸い寄せられるかのように、家の中に入った。

「ああ、いらっしゃいませ」

声をかけてきたのは、正面のカウンターテーブルの向こう側に立っていた魔術師だった。
しかし、その手前には二人の少年が椅子に座っていた。その少年たちもアルカナの存在に気づいて振り返る。その少年たちは、以前空き地で喧嘩をしていたトサとヨンだった。

「なんだお前、ここは俺たちの秘密基地だぞ。お前が来るところじゃない」とトサ。

「そうそう。どうやってこの場所を見つけたか知らないが、お前みたいな気持ち悪いやつは来ちゃだめだ」とヨン。

汚い言葉を吐く二人に対して、アルカナも言葉を返す。

「あら、あなたたちいつの間に仲良くなったの。以前は王様になりたいとかで争っていたのに」

「うるさい、それは前のことだ。そんなことより、なんでここに来た?」

「その手品師さんに用があったの」

二人が振り返り、魔術師を見る。すると、魔術師は頭を下げた。

「すみませんお二人とも、本日のショーはこれまでということで。彼女と約束をしていたことをすっかり忘れていました」

「ちぇ」とわかりやすく機嫌を悪くした二人は、しぶしぶ家を後にした。

それを見送ったアルカナは、トサが座っていた椅子に腰を下ろし、ヨンが座っていた椅子に買い物かごを置いた。それからため息を吐くかのように言う。

「まだ、こんなことやっていらしたのね」

「ええ、まあ。それにしてもあのお二人はお知り合いで?」

「うん、同級生よ」

「なんと、同級生でしたか。やはり女性の方が賢く生きているというのは、確かなようですな」

「それは、あたしに対する皮肉かしら。それとも自分への戒め?」

ハハハッとわざとらしく笑って見せた魔術師は、なぜか身につけていた帽子と上着を脱いだ。それから手袋や蝶ネクタイまで外し、パチンと指を鳴らして薄暗かった部屋の照明を明るく点した。

その瞬間、目の間にいたはずの魔術師の姿が一転、いつか見た痩せたサンタクロースのように変わった。

「アルカナ様が、わざわざ足を運んでいただいたのですから、もう取り繕うのは止めましょう。なあに、この老いぼれにも、まだ神の思し召しに従う機会を得たということだろう」

「聞かせてくれるのかしら。あなたが塔のてっぺんから落ちてしまった理由を」

「ええ、そのつもりです」

それから魔術師は、自らが王であった時代に何が起き、その時自分が犯した過ちを淡々と話して聞かせた。その間、アルカナは相づちを打つ素振りもせず、ただじっと話す相手の目を見つめていた。

そして話の最後に言った。

「塔の頂上にあったものは、富や名誉ではない。私が欲望のままに欲していたものはなかったのです。今の女王陛下は、それを知っている。だからこそ、ああして立派になられているのです。彼女にふさわしい。私にできるのは、未来の宝を豊かにすることだけです」

それから魔術師は、一呼吸置いてから言った。

「アルカナ様なら、見ることもできるのではないですか? 塔の頂上にあるものを」

「いいえ、あたしに見えるのは実体のあるものだけ。塔のてっぺんには、秀美な女王様しか見えません」

「……それなら、よかったです」

『悪魔とアルカナ』

アルカナは一人で協会に来ていた。

今日はミサの日ではない。教会に訪れた理由は、とある人物に呼び出されたからだった。
呼び出したのは女祭司ではない。いつの日か浜辺に指輪をなくした男だった。

「今日は何の用かしら」

アルカナは、一人聖母マリアに祈りを捧げる男に対して言った。

「実はちょっと相談したいことがありまして」

「相談? あたしはお悩み相談は受け付けてないわよ」

「そんな冷たいこと言わないでください。あなたには一度救われているのです」

救ったと言っても、指輪は海の底に沈み、戻ってきてはいなかったはず。

「実はこの間、彼女が体調を崩して倒れまして。何でも、遠く離れた母親の住む家でないと治らないっていうのです。それからもうずいぶんと時が経ちます。彼女とは全く連絡がつかなくて。彼女の母親の家もどこにあるかわからないし、もうどうしたら良いのか」

聞くとも言ってないのに、口から溢れ出すかのようにしゃべり出す男を、アルカナは呆れたように見つめていた。

「恋人の所在がはっきりしているなら、あたしが捜し出すまでもないわ。あなたはもっと恋人を信じてあげるべきよ。それに恋人の実家なら他の方法を使って調べることもできるでしょう」

何も言い返せない男は、下唇を噛みうつむいた。するとそこに、様子を見に来た女祭司が姿を現した。

「こんにちはアルカナちゃん」

「お邪魔してます祭司様」

「いいえ。あら、こちらのお方は?」

アルカナが事情を説明すると、女祭司はうんうんと頷きながら言った。

「そうね。確かに今回の件は、アルカナちゃんに頼らずとも解決できそうね。あなたの気持ちが強いのであれば、もう少し努力してみても良いのかもしれません。すぐに誰かの手を借りようというのもよくありませんし」

「ただ」と女祭司は、アルカナに向き直って続けた。

「アルカナちゃんには、この方の恋人が今どこにいらっしゃるのかを、捜してもらえないかしら?」

「え、どうしてですか?」

急なふりに思わず身を乗り出すアルカナに対して、女祭司はアルカナの耳元で囁いた。

「たとえ相手がどんな悪魔であっても、救いを求める者に救いの手を差し出さないわけにはいかないのですよ。ここではね」

ここはこの町唯一の教会。多くの人々が祈りを捧げに訪れる。その中には教会に救いを求めて訪れる者もいる。女祭司は、そのすべての人に対して救いの手を差し出してきた。
アルカナが今いる場所は教会。その教えに背くわけにもいかなかった。

「わかったわ」

そう言ってアルカナは瞑想する。その姿を見てなぜか男はアルカナに向かって祈りを捧げた。

瞑想の中、アルカナは確かに男の恋人を捜し出した。しかし、それがあまりにも意外な場所だったため、見つけたもののしばらく瞑想を続けた。
思っていたよりも長い瞑想に、側にいた男も不安げな表情でアルカナを見つめる。そして、アルカナはお決まりの「あったよ」という言葉を発せずに目を開けた。

「どうでした?」

女祭司の言葉に、アルカナは目線を合わせて強く頷いた。そして今度は男に向き直り、言葉を慎重に選ぶかのように言った。

「あなたの恋人は、とても苦しんでいるようね。でも、心配はないわ。母親の元で安静にしてるからね。ただ、もうしばらくは帰らないと思うわ」

「そうですか。でも、なぜ私ではいけないのでしょうか」

すると今度は女祭司が男に懇々と諭す。

「自分の胸に、手を当ててごらんなさい。私が思うに、あなたの恋人が体調を崩した原因は、あなたにあると思うよ」

「私に、ですか」

勘の鈍い男に対して、アルカナが少し強い口調で言った。

「無くした指輪を必死に捜していた時のあなたと、今のあなたはまるで違うわ。久しぶりに会ったとき、別人かとも思ったぐらいよ」

それから女祭司と男が向き合って話をした後、男は肩を落として教会を後にした。

用の済んだアルカナも家に帰ろうとすると、女祭司の隣に先ほどまでいなかった修道着を着た女性が、教会の入り口に一人立っているのが見えた。
見覚えのある顔だった。その女性が深々とお辞儀をしていたのを見て、アルカナは思わず手を振って答えた。

『蘊蓄を傾ける彼』

気がついたら夜空には、星が輝いていた。

楽しい時間はあっという間に過ぎてしまう。

「ねえ、観覧車乗ろうよ」

「え、ああ良いけど」

彼との初めてのデート。観覧車で有名な遊園地に遊びに来ていた。最後はあれに乗る。そう決めていた。

列に並んでいると、隣りにいた彼が唐突に言った。

「そうだ、観覧車の起源って知ってる?」

「観覧車の? 知らない」

そう返すと、いつもの得意げな表情に変わり鼻の頭をかいた。

「今でいう観覧車は、ゴンドラに乗り高いところまで上って、そこから景色を眺める遊具っていうのが一般的な認識。だけどその起源は、まだ罪人を処刑する道具のひとつだったんだ」

「処刑!?」

「そう、昔は罪人を十字架に張り付けにして、公開処刑するなんてことは頻繁に行われていた。今じゃ考えられないけどね。当時は水車の似た車に、罪人を張り付けてグルグル回す。ああ、その苦痛を考えるだけでも恐ろしい。でも、そこから観覧車が生まれたんだ」

「それじゃ、観覧車って……」

「うん。観覧車の観覧っていうのは、中から外を見るということじゃなくて、外から苦しむ罪人の様子を観衆が嘲笑う意味なんだ。だからつまり、ゴンドラに乗って観る景色ってのは、実は罪人が死の境に観た景色だってこと」

デートの最後にこんな暗い話。彼の意図は見え見えだった。

「ねえ、もしかして高いところ苦手?」

虚を突かれてうろたえる彼。そして鼻の頭をかいた。

「そ、そんなことないよ」

そんな彼がなんだか愛おしく思い、私はそっと彼の袖を引っ張り列から外れた。

観覧車は、男が見栄を張る遊具なのだろうと、なんとなく思った。