十文字掌編小説ぶろぐ

べんべんとした日常に豊かな物語を。短くたって構わない。豊かなものでさえあれば。 不定期の更新です。月3回を目標に。

2016年01月の記事

『写不真』

「ねえ、これ見てよ」と眉間に皺を寄せた彼女が一枚の写真を渡してきた。

そこには、彼女とその友達が仲良くポーズを取っている。背景はどこかの水辺だろうか。

しかしその写真を見て、僕は単純に「楽しそうだね」と言葉にすることはできなかった。それには理由がある。彼女の不穏な面持ちが隣りにあったからだ。

自分の思い出を共有したいというなら、こんなに不安げな表情はしない。渡されたこの写真に原因があるのだろうと理解できるが、いったいこれのどこにその原因があるのか。

「これその友達から送られてきたんだけど……」

送られてきた写真。彼女はこれを見てすぐにその違和感に気づいたという。僕も目を皿にして違和感を探す。

写真は、真実を写すと書いて“写真”というぐらいだ。ここに写っているものが真実だとするなら、違和感はひとつしかない。

「この君の隣りにいる友達は、本当に友達なのかい?」

そう言うと、彼女は首を傾げた。

「何言ってるの、当たり前じゃない。そこじゃないわよ。ここ。ほら、湖のところに人の足みたいな物が出てない?」

彼女はそう言って写真の一部を指さす。しかし、僕の目に映る違和感は、彼女の隣で幸せそうに写る男にしか感じなかった。
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『うちの子に限って』

うちの子に限って。

うちの子に限って、誰かをあやめることなんてしない。

しかし、遊びから帰ってきたユミの口元や手足は真っ赤に染まっていた。

血だった。

「どうしたの……それ?」

私の問いに、ユミは不気味に微笑むだけで何も答えない。

ユミはまだ三歳だ。それに近くの公園で遊んでいただけのはず。一人で遊びに行かせた私が悪いのかもしれない。それでも、まさかうちの子が。

しかしもうどんなに嘆いても、責任を問われるのは親である私。後悔しても遅い。
ただ、未だに目の前に現実を受け入れられない。それだけ愛情を持って育ててきたのだ。

私はユミの口元や手足を拭いてあげた。拭いたぐらいで現実が消えて無くなるわけではないけれど、彼女をそのままにしておくわけにもいかない。そして尚且つ、あやめたものを確かめなければいけなかった。

現実逃避をすれば同罪。いやそれ以上の罪になるのだろうか。

私は玄関を開けて、外を見た。

そしてそこにあった血だらけになった肉塊を、私は新聞紙で包んだ。

『吊るし人とアルカナ』

アルカナの住む町に、とある青年がいつしか姿を現すようになった。その青年はいつも町のゴミ拾いをしていた。ゴミを持ち帰ったり誰かに頼まれたりしているわけでもなく、自ら進んで行っていた。

しかしその青年の容姿は、きれい好きとはほど遠い、まさにみすぼらしい格好。髪はボサボサに伸び、上着は所々破れ、ズボンには穴、靴は左右で違うものを履き、全体的に煤で汚れていた。

悲しいことに、彼そのものがゴミだと投げ捨てる住人もいた。

その不思議な青年に近づこうとする者はほとんどいなかったのだが、ある時アルカナのほうから青年に近づいていった。

「ねえ、あなた。あなたはこの町に住んでいるの?」

すると青年は悲しい顔をしてかぶりを振った。

「いええ、違いますよ」

「それじゃ、どこに住んでいるの?」

「僕には家が無いんです」

「なら、捜してあげるわ」

唐突に瞑想を始めたアルカナに対して、とても困惑した表情になった青年は言った。

「そんな、僕にはアルカナさんに何かお礼できるものなんて無いのですよ。アルカナさんのお力は素晴らしいものと聞いております。こんな僕のためにお力を使われるのはやめてください」

青年の言葉がまったく耳に届いていない様子のアルカナは「あったよ」と言い、それから続けた。

「あなたのお家まで案内してあげるわ」

そう言うと、アルカナは青年の手を引いて歩き出した。

「本当にやめてください。アルカナさんまで僕みたいに冷たい目で見られてしまいます。それに、僕は家を無くしたわけじゃなくて、元々無かったのですから、捜しても見つかるはずがありませんって」

その言葉には何も応えず、アルカナは淡々と歩を進める。そして、しばらく歩き続け二人がたどり着いた先はお城のある門扉の前だった。

「あなたの家はここでしょ。王子様」

すると、先程まで背筋を曲げ腰を低くしていた青年が、服についた煤を払い髪を整え始めた。

「はあ、バレてしまってはしようがない。君は初めからわかっていたのかい?」

「ええ、お城に呼ばれた際、写真でお顔を拝見していましたもの。それに今回は女王様のお依頼ですので」

「やっぱりそうか。僕はどこに行こうとも、君と女王様がいる限り、常に足を吊されているようだな」

少しばかり青年を気の毒に感じたアルカナはひとつ質問をした。

「どうしてあなたは町に出てゴミ拾いをしてたの?」

すると青年は胸を張って言った。

「ゴミは元々誰かのものであり、持ち主のいなくなったものがゴミとなる。ゴミが溢れれば人々は困る。ゴミを拾うことで町を、ゴミ自体を救うことに繋がる。ゴミがゴミでなくなるってこと。一国の王子として当然のことさ」

「それじゃ、その格好は? 変装するにしたって、もっと他の変装があったんじゃないのかしら?」

「これは僕自身がゴミになりたかったんだ。ゴミの気持ちが知りたいっていうことに加えて、ゴミになることで自由を手に入れられる」

青年はそのゴミのような服や靴を脱ぎ始めた。

「でも、本当はそんな僕みたいなゴミでも、拾ってくれる人がいるのか確かめたかったんだ」

そして青年は去り際に言った。

「ありがとう。君にも後でお礼をするからね」
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