十文字掌編小説ぶろぐ

べんべんとした日常に豊かな物語を。短くたって構わない。豊かなものでさえあれば。 不定期の更新です。月3回を目標に。

2015年07月の記事

『ネジがひとつ多いロボット』

ロボット開発を進める博士の元に、一番弟子のショーンが呼吸を乱しながらやってきた。

「博士! ついに完成しました!」

ショーンが完成したというのは、彼がここ数ヶ月一人で研究開発していた人型ロボットであった。

「そうか、ちょっと見せてみなさい」

そのロボットは一見他のものと変わりのない人型ロボットだったため、博士は首を傾げた。

「少し身体は小さいですが、中身は上出来です」

ロボットの頭をショーンが軽く触れると、ロボットが言葉を発しだした。

「コンニチハ、ハカセ。ボクノナマエハショーンデス」

ショーンがロボットに自分の名前をつけるのはいつに変わらず。

今更言葉を話す程度では博士は驚かない。

「こんにちは。ところで君にはどんな機能があるのかな?」

博士の問いに、今度はロボットが首を傾げる。

「ハカセ、オッシャッテイルイミガ、ワカリマセン」

「すみません、博士。こいつ、ちょっとアレなんです」

「なんだ、やっぱりまた欠陥か」

そう博士が肩を落としている中、ショーンはしめしめと微笑んでいる。

「それは誤解です、博士。欠陥とは完璧な状態から見て何かが足りないことを言います。ただまあ、確かに完璧とは言えないんですけどね」

「完璧ではないのか。それでよく完成したと意気込んでいたものだ」

「完成と完璧は違います。こいつはこれで完成なんです。その証拠をご覧に入れますよ」

するとロボットがその表情を変えずに言った。

「ハカセ、サイキン、フトリマシタネ。ゲンインハ、チョコレートノタベスギデスネ」

「な、なぜこいつが私の好物を知っている。もしや、ショーン、お前が教えたのか」

「いいえ、こいつには推理能力があるんです。ホームズみたいな」

「本当なのか。ん……いや、待て。そもそも最近はチョコレートではなくアンコを食べているのだが」

「あ、じゃその口元に付いてるのはアンコでしたか」

「嘘じゃ」

「え……あ、ああ」

「やはり、そうか。お前はこの数ヶ月、腹話術の特訓をしていたのか」

「ハハッ、ばれちゃいましたね。でも、どうです。今までのロボットよりも上出来じゃないですか?」

「まあ見方を変えればな、ロボットの中身が人間。しかし、余計なネジが一本多い。確かに完璧とは言えんな。それに、もはや人形と変わらない」

「あらら、これは手厳しい。そうですね、やっぱり人間もロボットも完璧を求めちゃいけないってことですかね」
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『恋人とアルカナ』

アルカナはとある事情があり、薄暗い砂浜へと足を運んでいた。

この砂浜は昼間には多くの観光客や家族連れ、そして恋人達で賑わう海水浴場であった。しかし陽が沈むと一転、漣の音がよく聞こえる砂浜へと姿を変える。

今、この砂浜にはアルカナの他に一人の若い男がいた。男は今回アルカナにある捜し物を依頼してきた人物である。

その捜し物とは指輪だった。昼間に恋人とこの砂浜に遊びに来た際に、身に付けていた指輪を落としてしまったそうなのだ。気づいたのも遅く、後で捜してもなかなか見つからなかったという。

指輪はその恋人と記念に購入した代物。唯一無二であるので、どうしても捜し出さなければいけないのだと男は懇願してきた。

アルカナはいつものように瞑想して、指輪の位置を捜し当てたのだが、なにぶん目印の無い広い砂浜なので、実際に現場に足を運び、具体的な位置を示す必要があった。そうしてアルカナは男を連れて一緒に砂浜にやってきたのだ。

「アルカナちゃん。それでどの辺りに指輪は落ちているのかな?」

終始落ち着かない様子の男に対してアルカナは言う。

「あの辺り、よ」

アルカナは砂場のちょうど中央、目印も何もない場所を指さした。

すると透かさず男はその場所に向かって走り出した。

その様子をもの悲しげな表情で見つめていたアルカナは、この一件をどう完結すれば良いのか悩んでいた。


実は現在、指輪は深い海のそこにある。確かに最初に捜した時には砂の中に埋まっていたのだが、ここに来るまでの間に波にさらわれてしまっていた。

それは先程再び瞑想した時にわかったことなのだが、一度砂場にあると言ってしまった手前、それが今はもう無いのだとは言いづらい。希望を与えた後すぐに失望させるのは辛辣だ。ただ、かといってこのまま蛇の生殺しのようなままでもいけない。

必死になって砂をさぐる男を、アルカナは注視することが出来ない。

恋愛経験のないアルカナにとって、この恋人という存在にどれほどの魅力や価値があるのか不透明であった。故に貝殻で海を測ることはできない。

深く悩んでいたせいか、背後から近づく人影に全く気づかなかったアルカナは、ふいに声をかけられて身体をビクつかせた。

「ごめんね、アルカナちゃん」

振り向くと、そこには若い女が立っていた。

「彼ね、どうもおっちょこちょいなところがあって。でも、何事にも必死になってる姿ってなんとなく格好良く見えちゃうのよ。だからかな、許せちゃうんだよね。自分でも不思議なんだけど」

女はそう言い残すと、必死になっている男に近づいていった。

恋人たちの様子をしょっぱい顔で眺めていたアルカナは、心の声が漏れて出た。

「なんだか、眠くなってきちゃったわ」

『生きている実感』

「生きている実感がしないんです」

放課後になって相談したいことがあると、ひとりの生徒が私のところにやってきた。

「鈴美さんは、生きている実感が欲しいのかい?」

「はい。わたしは人形なんです。だからみんなわたしに乱暴するんです。文句も言いませんし、反抗もしない。痛みも感じないし、涙も出ない」

彼女の発言に、私は一抹の不安を抱いた。それでも用意していた常套句を彼女に話した。

「鈴美さんはちゃんと血の通った人だよ。ほら、耳の穴を塞ぐようにして指を入れてごらん。微かにゴーッって音が聞こえないかい? それは鈴美さんの身体の中を流れている血の音だよ」

訝しむ彼女に私が手伝いながらその動作を促した。すると、彼女は自分の耳の穴を指で塞ぎながら目を閉じた。

自分の胸に耳を当てて、自分の鼓動を感じる術は難しい。そんな時にはこうした方法で、自らの生を感じ取るのだ。

「先生、何も聞こえません」

「そうか」

何も聞こえないことはよくある。聞こえていても伝わらない。精神的に不安定だと、聞こえないこともしばしば。だから、常に次の一手も用意してある。

「それじゃ、これはどうかな」

私は彼女の手のひらに向かって懐中電灯の明かりを当てた。

「ほら――手のひらを太陽にっていう童謡があるだろ。あれこそ生きている実感を求める人にとっては、まさに最適な歌なんだ」

「先生、何も見えませんよ」

「おかしいな。そんなはずはないのだけれど」

「おかしい?」

「う~ん、この方法で成仏できなかったことはな――あ」

「成仏?」

「あ、いや……」

私の失言で、ようやく自分の身に起きた事態を理解したのか、血が騒いだかのように彼女は言葉を吐き出した。

「そうよ、わたしは昨日死んだばかり。血液なんて流れているわけないじゃないですか! それに……」

彼女は少し言い淀んだ後、自分の首元をさすりながら怯えた様子で言った。

「先生が、わたしを……」

「思い出しちゃったか。死んだショックで一時的に記憶喪失していたんだがな」

「……どうして?」

彼女に全てを話してしまうのは苦だ。記憶を無くしているのだから、辛いことはそのままにしてあげた方が救われるだろう。

しかし、自ら死を望んだこと、それを私に実行させたこと、そして彼女が私を愛していたこと。それすら忘れてしまうのは少し酷い。

それでも、自分が死んでしまったことをしっかりと理解しなければ、成仏できないのだから仕方がない。

薄くなっていく彼女に対して私は最後に告げた。

「人は今際の際になって感じる“生きている実感”こそ、最も強く感じるんだよ。だから鈴美さんにはもうとっくに“生きている実感”をあげているんだよ。――どうだった? “生きている実感”っていうのは。とても苦しかったでしょ」