十文字掌編小説ぶろぐ

べんべんとした日常に豊かな物語を。短くたって構わない。豊かなものでさえあれば。 不定期の更新です。月3回を目標に。

2015年04月の記事

『灰かぶり雛』

今回は『灰かぶり姫』ではなく、『灰かぶり雛』です。


10年ぶりに実家にある自分の部屋の押し入れを開けた。

小学生の頃に使っていた勉強道具や遊具などが乱雑に仕舞われていた。

その中から掌サイズの人形を見つけた。

ホコリのかぶった人形は、どこか寂しげに見える。しかし私はその人形に憶えがなかった。

押し入れにある他の物に関しては、僅かながらにも記憶が残っているのに。

両親に聞いてみても知らないの一点張り。少し不気味に感じた私は、その人形をすぐに捨てることにした。

記憶に無かった物は、無かったことにしてしまえば。


それからさらに3年後。実家を引き払うことになり、再び押し入れを開けた時、記憶の無い人形がそこにいた。

しかしこのホコリのかぶった人形は20年前の物とは違う。一緒であれば記憶に残っているはず。

人形が勝手に動くようなことはありえない。万が一動いたとしても、自ら灰を被るだろうか。

今度はすぐには捨てずに、その人形にこびりついたホコリを拭いてあげることにした。

しかし拭いても拭いても、そのホコリは取れなかった。

すると、魂が乗り移ったのか、その人形が唐突に言葉を発した。

“ワタシハモウ、シンデルノ”

「え」

“ホントウニシンダラ、ヒトノキオクカラモ、イナクナルノ”
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『王様とアルカナ』

おばあちゃんに頼まれた買い物帰りに、アルカナが近所の空き地の前を通ると、ちょうどそこで数人の同級生たちが集まっていた。

近づいて様子を窺ってみると、どうやら二人の少年が言い争っているのを、他の子達が見守っているようだった。

どんなもめごとなのかアルカナが興味を持って更に近づくと、その存在に気づいた少年の片割れが言った。

「おい、アルカナじゃないか。丁度良かった。お前に決めてもらおう」

するとその場にいた子達の視線がいっきにアルカナに集中する。アルカナが何のことかと首を傾げると、側にいた少女が言う。

「今度の町内の集まりで演劇をやるみたいなの。それで彼らのうちどちらが王様役に相応しいかでもめてるの。アルカナちゃんはどう思う?」

その彼らというのは、貴族育ちで父親は王国で仕えているというトサと、育ちは平凡だが頭がよく運動もでき容姿端麗なヨンの二人であった。

「俺のパパは国に仕えてるんだ。お金もあって高価なものだってたくさん知ってる。王様には俺の方が相応しい」とトサは言う。

「いや、王様は頭もよく運動もできるような完璧な人間にこそ相応しい。育ちなんて関係ない」とヨンも言う。

するとアルカナは悩むことなく二人に言った。

「王様なんていないわ」

その言葉に狐につままれたかのようになったトサとヨンは一呼吸おいてから反論する。

「何を言ってる。俺のパパは王様のいるお城で働いているんだとさっきも言っただろう」とトサ。

「そうだ。それに今はいるいないとかじゃなくて、どっちが王様に相応しいか聞いてるんだ」とヨン。

その反論を一蹴するかのようにアルカナは言う。

「この国には王様はいないのよ。だってあたし捜したけど見つからなかったもの。だからいないものを演じることもできないってわけ。二人には申し訳ないけど、演目から見直した方がいいわ」

アルカナが捜しても見つからないというのは、もうこの世には存在しないということ。それをこの町の人々は常識のように認知している。それは彼らも同じ。
このアルカナの言葉は二人に重く突き刺さった。

二人が肩を落として帰った後、側にいた少女がアルカナに聞いた。

「本当に王様っていないの?」

するとアルカナは微笑みながら答えた。

「さあ、わからない」

「えっ、どういうこと?」

「だって、あたし王様にあったこともなければ、捜したこともないもの」

「それじゃ、二人に嘘ついたってこと?」

「うん。あたしには二人のうちのどちらかを王様に選ぶことはしたくなかった。だから適当なことを言ったのよ」

「どうして?」

「どうしてって、あたしがどちらかを選んだところで、論争が収まるとは思えなかったから。だってあたし今、買い物途中だもの」

アルカナはそう言い残し、空き地を去って行った。その後ろ姿は、まるで女王様のように優雅だった。

『わする』

「ねえ、今日って何の日だっけ?」

「何の日って、今日はお祭りだろ。だから二人して浴衣に身を包んで神社に来てるんじゃないか」

「ええ確かに今日はお祭りね。でも、もっと大切な日でもあるの。そもそもわたしにこんな質問をさせてる時点で問題だわ」

「大切な日って?」

「……はあ、今日はわたしたちの結婚記念日よ。しかも初めての」

「結婚記念日はらいげ……あ」

「“あ”じゃないわよ。こっちはどれだけこの日を楽しみにしてたと思ってるの? “お祭りに行こう”って誘ってくれたから、何かここでサプライズでもしてくれるのかと思ってたけど、全然そんな素振りもしないじゃない。もう我慢の限界よ」

「いやいやいや、こ、これから、そ、そのサプライズ、サプライズをやろうと思ってたんだよ。じらした方が効果あるかなって」

「サプライズを予告しちゃったら、驚きも感動も台無しじゃない」

「そんなことないよ。ほら、このタコ焼きでも食べる?」

「いらないわよ」

「そんなこと言わずにさ。このタコ焼き美味しいよ。それに喉元過ぎれば熱さを忘れるっていうじゃないか」

「知らないわよ」

「それにほら、こういうお祭りとかって縁日って言うだろ。良いご縁がある日が記念日なんて運命的だと思わないかい?」

「どうだか」

「折角だし、ちょっとお参りして行こうよ。縁日に参詣するとより御利益があるんだってさ」

「勝手にしてよ」

「君と過ごしてiいる日々を一生忘れることのないようにして下さい。それが僕の願いです」

「……その願い、叶えてよね」
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