十文字掌編小説ぶろぐ

べんべんとした日常に豊かな物語を。短くたって構わない。豊かなものでさえあれば。 不定期の更新です。月3回を目標に。

2015年03月の記事

『ドライフラワー』

一年ぶりに実家に帰ってきた。

二階にある自分の部屋は学生当時のまま。母がそのままの状態で残しておいてくれたようだ。物の位置は変えずに掃除は隅々まで行き届いている。

一階のリビングから笑い声が聞こえてきた。

実家には父と母、寝たきりの祖母と大学生の妹がいる。自分だけが家を出て東京で一人暮らしをしている。

部屋の中で懐かしさに浸っていると、一カ所だけ自分の記憶にはない物が存在しているのに気づいた。

学習机の上に一輪の花。ドライフラワーだった。

それを手に取り眺めてみる。そうしてようやく思い出した。この花は妹の結婚式で使われたブーケの花束の一輪だ。

結婚式はちょうど三年前、反対した両親を押し切り、妹は身内だけの小さな結婚式を強行した。

妹のためなら協力は惜しまない。自分もあらゆる面でサポートをした。

理由も別に血の繋がった兄妹だからというわけではない。家族だから当然という理由でもない。

――ただ、愛していたからだ。

このブーケの花もそういえば自分が注文したものだ。ドライフラワーとなっていたので、すぐには気づけなかった。

しかしよく見ると、その花の美しさは一年前と何も変わらない。妹も同様に。

すると、再び一階から笑い声が聞こえた。

一階に降り、リビングに向かう。父と母、寝たきりの祖母の姿はそこにはない。妹だけが変わらない笑顔で自分のことを迎えてくれた。

「ただいま」

着けっぱなしだったテレビ電源を消すと、家中が静寂に包まれた。
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『女帝とアルカナ』

ある身も凍るような寒い夜。アルカナは13歳の誕生日を迎えていた。

おばあちゃんが買ってきてくれた誕生日ケーキを頬張っていると、アルカナ宛てに一通の郵便が届いた。

差し出し人は協会の女祭司だった。

《ごきげんよう、アルカナ様。
最近は肌寒い日々が続いておりますが、お風邪でも引かれてはいませんでしょうか。身体にはじゅうぶんにお気をつけて下さいませ。
さて、この度は急なお手紙、大変失礼致します。実は、私のある知人のお願いを、アルカナ様に聞いてもらいたいと思い、筆をとらせて頂きました。
そのお願いというのは、知人の亡くなった父親の遺品である冠を捜して欲しいとのことです。ただ、それがどのような冠なのか私にもその知人にもわからないのです。わかるのは、その冠はとても名誉ある代物で、生前その友人のお父様が命よりも大切にしていたものであるということなのです。
このようなお願いをお手紙という形になってしまったのも、その知人も私も今とても忙しい身であります故、どうかお許しください。
もちろん、お礼も用意してあるそうです。私からも、協会に再びいらして下さった際に、ご用意しておきますので、吉報をお待ちしております。
オネスト協会 祭司マリア》

手紙とともに、一枚の写真が同封されていた。

その写真には女祭司と一緒に微笑む貴婦人が映っていた。アルカナはその顔に見覚えがなかったが、写真を見たおばあちゃんは驚いて腰を抜かした。

「そ、その方は国の女王さまですよ」

「女王さま?」

アルカナにとって女王様という存在は、空想上の動物と似ていて、おとぎ話のような世界の存在であった。それ故、この女祭司と一緒に映っている人物が女王様と聞いても、別段驚くこともなかった。

しかし、何かに操られたかのようにアルカナは「あるかな?」と小さく呟き瞑想をしていた。

「どうしたのアルカナ?」

おばあちゃんの声が聞こえていないのか、アルカナは目を閉じたまま。すると「あったよ」と突然声を出しておばあちゃんに向き直った。

「おばあちゃん、何か書くものを用意して」

言われたとおり羽根ペンと紙を用意したおばあちゃんは、アルカナのその様子を側で興味深そうに眺めていた。アルカナはペンを走らせ納得したかのように頷くと、その手紙を封筒に入れおばあちゃんに渡した。

「これを王宮に届けて欲しいの」

おばあちゃんは不思議そうにその封筒を見つめてから「わかったわ」と快く微笑み出かけていった。

数日後、アルカナの元に王国からの遣いと名乗る男がやってきた。

「アルカナ様ですね。私は女王様に遣える名をサンチェスと申します。この度は女王の願いを叶えて下さった御礼とその褒美を与えたく存じまして参りました次第でございます。女王はあなたにとても感謝しておられます。褒美というのも、アルカナ様の欲しいものなら何でも差し上げる用意はできております」

「それはわざわざご苦労様です。しかし、悪いのですがお断りしますわ」

「それは、どうしてですか?」

「あたしが欲しいものは、今のあたしが知らないものや話よ。でもね、それもこれも欲望のままに求めてはいけない気がするの。欲しいからといって自ら求めるんじゃなくて、自然と舞い込んできたものをあたしは受け入れることにしてるのよ。だから、何か欲しいものがあると訊かれても答えられないわ」

「……そうですか。では、こちらが勝手に差し上げる物であれば受け取ってもらえるのですね?」

「ええ、もちろんよ」

王国の遣いが帰った翌日、アルカナの住む家に高価な箱に入れられた月桂冠が届いた。それをさっそくアルカナは自分の頭に乗せてみせた。

「どう? おばあちゃん。似合う?」

「ええ、とっても。まるで女王様ね」

「ありがとう」とアルカナはおばあちゃんに心から感謝した。

その月桂冠はアルカナにとって、とてもとても大切な誕生日プレゼントとなった。

『万愚節』

平日のお昼時。
近所のファミリーレストランにて。
私は一人、テーブルの上にパソコンを広げながら紅茶を嗜んでいた。

店内では早朝の家事を終えた奥様方の集会、老夫婦の談笑、浪人生の個室勉強会などが催されているが、私の触手に触れたのは、黒いスーツ姿の二人組。彼らはすでに一時間以上も密談を交わしていた。

ひとりはプロレスラーのような体格に頭は坊主で首元にはケロイドの痕。もうひとりは長髪にサングラスで先ほどからずっと貧乏揺すりをしていた。

どう見ても怪しい。

絶対にこれから犯罪か何かをやろうとしている。もしくは過去に手を染めたか。

そんな人物と同じ空間に居合わせてしまっただけでも、足が震えている私なのに、他のお客や店員は、全く動ぜずに平和な日常を過ごしている。

もしかしたら、私にしか彼らのことが見えていないのかとも思ったのだが、店員はなんの躊躇いもなく普通のお客として対応していた。

すると突然、奥様方の集会から叫び声が聞こえてきた。

「何よこれ! スープにゴキブリが入ってるじゃない!」

その声に店内の視線が集中しざわめき始めた。店長らしき人物が対応し頭を下げている。しかし奥様方の怒りは治まらない。

すると今度は老夫婦の席の方からお皿の割れる音がして視線を向けると、夫の方が胸の辺りを押さえ苦しそうに顔を歪めていた。

「どなたか救急車を!」

妻の方が叫んだ。慌てた様子で店員が老人に近寄る。他のお客達も老人を心配して近寄ろうとしていた時、今度はかすれた男のわめき声が聞こえた。

「お前らうるさい! 静かにしろ! これが見えないのか!」

その声に驚いて振り向くと、先ほどまで個室勉強会をしていた浪人生が、若い女性店員を捕まえてその首元にナイフを当てている。

次から次へと事が起こり店内はパニック状態に陥っていた。私は一刻も早くこの場から立ち去りたかった。しかしこの状況下、堂々と店の出口付近に向かう勇気はない。

どうすれば良いか策を練っていた時、あの怪しい二人組が動いた。長髪の男がスーツの内ポケットに手を入れ、私の想像していた物を取り出し、それを天井に向かって撃った。

破裂音とともに女性の叫び声。

その瞬間、なぜか私は今が絶好のチャンスと捉えた。

パソコンを抱え退散の準備をしていた私は、二人組に視線が集まる中、逃げるようにして店の出口に向かった。

背後でドスの利いた声が聞こえた気がしたが、立ち止まってはいけないと思いそのまま店を脱出した。

そして何とか自宅まで逃げ延びた私は、早速パソコンを開いて先ほどの事件がニュースになっていないか、あるいはネットで騒ぎになっていないかと、とても気になり検索をした。

すると、ネットのトップニュースの見出しに『日本は戦争に突入した』とあった。


やられた。まんまと騙された。

いや、どこまでだ?

『まとめ記事④』

2014年10月から2015年2月までの記事まとめです。まとめ記事を更新するのが予定よりも遅くはなってしまいましたが、ご了承下さい。今回も同様に一言添えて紹介していきたいと思います。

◆オマージュ
『青かげ』……形ある彼なんて、初めからいない。
http://kairotto.blog.fc2.com/blog-entry-54.html
『華取物語』……華が散るのも早いものです。
http://kairotto.blog.fc2.com/blog-entry-65.html

◆フェーブル
『アリの塔』……散り際を夢見るなんて幸せだ。
http://kairotto.blog.fc2.com/blog-entry-61.html

◆ミスリード
『九官鳥の台詞』……台詞はうそ。うそでも楽しければいい。どうせヤメラレナイから。
http://kairotto.blog.fc2.com/blog-entry-55.html
『なにもない嘘』……なにもない嘘なんてない。
http://kairotto.blog.fc2.com/blog-entry-67.html

◆リトルホラー
『悦に入る彼』……彼の中に入ってはいけない。
http://kairotto.blog.fc2.com/blog-entry-53.html
『聖なる夜はイミテーションで』……模造品ではだめ。本物を知った時、残酷すぎるから。
http://kairotto.blog.fc2.com/blog-entry-62.html

◆レトリック
『桐箪笥』……箪笥の引き出しには、燃えてもいいものを。
http://kairotto.blog.fc2.com/blog-entry-59.html
『秤違い』……他人の想像を正確に理解するのは難しい。
http://kairotto.blog.fc2.com/blog-entry-68.html

◆エスプリ
『うらがなしい』……“表が出たら僕の勝ち。裏が出たら君の負け。”
http://kairotto.blog.fc2.com/blog-entry-52.html
『あまつさえ』……良いことも悪いことも度重なる。不思議です。
http://kairotto.blog.fc2.com/blog-entry-60.html

◆プレゼン
『記念記事①』http://kairotto.blog.fc2.com/blog-entry-56.html
『記念記事②』http://kairotto.blog.fc2.com/blog-entry-57.html
『記念記事③』http://kairotto.blog.fc2.com/blog-entry-58.html


今回は以上です。
カテゴリ【オネスト】につきましては、シリーズものとしておりますので、完結し次第まとめさせていただきます。
また、こちらに以前までのまとめ記事も載せておきます。
◆『まとめ記事①』2014年3月20日
◆『まとめ記事②』2014年7月1日
◆『まとめ記事③』2014年9月29日
さて、ブログタイトル・ペンネームなどを一新して初めてのまとめ記事でした。今後も精力的に執筆活動を続けていけるように励んでいきたいと思っています。何卒よろしくお願い致します。