十文字掌編小説ぶろぐ

べんべんとした日常に豊かな物語を。短くたって構わない。豊かなものでさえあれば。 不定期の更新です。月3回を目標に。

2015年01月の記事

『華取物語』

今回は『竹取物語』ではなく、『華取物語』です。


昔々、とある将軍家の嫡男、十兵衛のところに見合い話がやってきた。

しかしそのお見合い相手は一人ではなく二人。

ひとりの女の名は胡蝶蘭。彼女は京都出身の役所の娘であり、肌が白くつぶらな瞳を持っている。

もうひとりの女の名は月下香。彼女は下町の商人の娘であり、肌が白く小柄な体つきであった。

花の名を授かった二人の女は、顔は違えどとても美人であった。

欲深い十兵衛は、その二人の美女に一目で惚れてしまい、どちらを選ぶのかに迷った。両手に華ともいかぬ御時世において、どちらかと夫婦にならざるを得ない状況に、十兵衛は幸か不幸かひとつの妙案を思いついた。

「お主たち。オイラと夫婦となった暁には、いったいどんなことをしてくれる。それにて判断しようぞ」

二人は各々考え込んだあと、胡蝶蘭が先に口を開いた。

「私は、毎日殿方様のお傍におり身の回りのお世話を致します。また私の家系は多くの子を産みます。実際に私めも五人兄妹でございます。多くの子を産めば、優秀な殿方様の血を受け継いだ子が、広く世に出て活躍致すことでしょう」

「なるほど、どれは期待が膨らむな」

すると今度は月下香が口を開く。

「実は私、子を産めぬ身体でございます」

「それはなんと」

「しかしながら、十兵衛殿。私は多くの殿方と顔馴染みでございます。いいえ、更に申し上げますと私の言うことは何でも聞いてくれる、そのような殿方が全国に多くおるのです」

「それはいったいどういうことなのだ?」

「要するに、私のちょっとした口添えで、全国の名だたる将軍様や大名などを自由に動かせるのですよ」

「いやはや、それは何とも素晴らしいことだが、それほどの力にはどうしてもきな臭い節がある。オイラにそれを信じさせる確固たる証拠がなければ、お主を迎入れるわけにはいかぬよのう」

「それでしたら十兵衛殿――」と月下香は言い、自らが身に纏っていた着物を脱ぎ始めた。

「お主、なにを?」

すると、十兵衛の眼下に広がった光景は、一糸まとわぬ複数の乙女たちが突如現れ、可憐に踊り出したのだ。

しかし実際には、月下香が着物をはだけさせただけで、それ以外のことは何も起きていない。
十兵衛は幻覚を見ていた。

「あなた、いったい殿方様になにをしたの?」

横で見ていた胡蝶蘭が月下香に問うと、不気味に笑いながら答えた。

「なに、私の力を証明したまでですよ。これでもう十兵衛殿はあなたのものですよ。胡蝶蘭さん」

そう言葉残して月下香はその場から立ち去った。どうしたらよいものか、胡蝶蘭が戸惑っていると、幻覚を見ている十兵衛がおかしなことを言った。

「ここは花畑か。良き匂いがする。蝶よ花よと育てよう。さすれば多くの秀才な子が産まれる。祝おうぞ胡蝶蘭」
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『魔術師とアルカナ』

ある日、アルカナの住む町に自身は手品師であると名乗る男が現れた。

その手品師は町の一角に自らの店を建て、そこで自慢の手品を披露して訪れる客たちを楽しませていた。

しかしある日、その店を訪れた一人の客が、憤怒の形相でアルカナの家にやってきた。

「あの店はとんだインチキだ」

「どうかしたの?」

「聞いてくれアルカナちゃん。あの店の手品師に言われたんだ。『あなたは近いうちに大切なものを手放すことになる』って。それを聞いた時、こいつは何かの悪徳商法でもやっているのかと思って、その後に助言みたいなことも言われたんだが、てんで相手にしなかったんだけどよ。この前本当になくなったんだ」

「何がなくなったの?」

「……俺の息子だ。突然家から出て行ってしまったんだ。息子との仲違いなんてものはなかったし、この町に人攫いのような輩がいるとも思えない。犯人は絶対にあの手品師だ」

「じゃあ、あなたの息子さんを捜してあげるね」

そして「あるかな?」と呟きアルカナは瞑想する。

「どうかな?」

「あったよ! ……でも」

アルカナの表情は明らかに曇っていた。

「あなたの息子は確かにその手品師の所にいるわ。でも、ちょっと変なの」

「変?」

「息子さんの姿が見えないの。その手品師のお店にいるはずなのに。どうしてかしら」

その客は曖昧な確信のままでは店に押しかけられないと言って、その日は足取り重く家路についた。
頭の中に霧がかかったような状態を嫌うアルカナは、それをすっきりさせたいと思い、おばあちゃんに頼んで例の手品師を呼んでもらった。

「あなたにお目にかかれて光栄です。アルカナ様。お噂はかねがね」

西洋紳士のような佇まいで現れた手品師は深々とお辞儀をする。

「あなたは町人たちから、子どもたちを攫っているわね。でも、あなたのお店には子どもたちの姿はない。これはどういうことなの?」

「これはこれは、流石といったところですね。ですが攫っているというよりも奪っているというのが正しいのです」

「どういうこと?」

「実は私、手品師というのは偽りの姿でありまして、真の姿は魔術師なのです」

「魔術師?」

「ええ。人の心を奪う魔法を子どもたちにかけたのです。姿が見えないのは、心だけを奪ったからですよ。もう一度あなたのその不思議な力を試してみてはもらえないでしょうか。ここに訪れた町人の息子さんを捜してみては」

「わかったわ」

その魔術師に言われたとおりにアルカナは瞑想する。すると、アルカナは小さく頷いた。

「本当ね、確かに彼の家にいたわ。でもあれね、またちょっと変ね。この子ちっとも笑ってない。まるでブリキの人形みたい」

「そうでしょう、心を奪ったのですから。恐らくその町人が語った息子さんがいなくなったというのも、何かの当て付けだったのでしょう」

「ねえ、魔術師さん。ちょっと聞いてもいい?」

「なんでしょうか」

「どうして魔術師の姿を偽って、手品師としてお店を開いているの?」

「それはですね。魔術というものは人々にとって神秘的なものであり続けなければいけないからです。現実に当たり前のように存在してしまえば、初めは輝いていたとしても時が経つに連れ、いつかは輝きを失ってしまう。それはこの世に存在する万物に言えることなんです。永遠の輝きを維持するには、神秘的であり続けなければいけないのですよ」

「それって、あたしに話しちゃって大丈夫なの?」

「ええ、問題ありません。――アルカナ様も私と似たもの同士なので」

結局、アルカナが初めに町人の息子を捜した際に、その姿が見えなかった原因は霧に包まれたままだったが、アルカナは全く気にならなくなっていた。

『愚者とアルカナ』

とある小さな町外れに、アルカナという名の12歳の少女がいた。
アルカナには両親がおらず、70歳のおばあちゃんとの二人暮らし。しかし、二人は生活に困難しているわけではなかった。

その理由は、アルカナにあった。
アルカナには不思議な力があり、町中の人々が彼女の不思議な力に頼っていた。その力とは無くしたものを捜し当てるというものだった。
そもそもアルカナという名は彼女の本当の名ではない。彼女がその力を発揮する際に、「あるかな?」と呟くことから彼女のことを皆がアルカナと呼ぶようになったのだ。

そしてこの日も、彼女の力を求めて一人のピエロが訪れた。

「アルカナちゃん、お願いします」

「何を捜して欲しいの?」

「僕が仕事で使ってるコインが盗まれたんだ。あれがないと仕事ができない」

「う~ん、あるかな?」

お決まりの呟きとともにアルカナは瞑想する。そして「あ」と声を上げたアルカナはピエロに言う。

「あったよ」

「本当! いったいどこに?」

「ほら、今あなたのポケットの中に入ってる」

「え」

ピエロが自らのポケットを確認すると、確かにそこには一枚のコインが入っていた。

「ああ、なんてこった。こんなところにあったのか!」

「ねえ、ピエロさん。ちょっと聞いてもいい?」

「ええ、なんなりと」

「あなたはいつも笑いながら泣いているのね。今は無くしものが見つかって嬉しいの? それとも自分の間抜けさに呆れてしまって悲しんでるの?」

「それは、どちらも違います。僕が笑いながら泣いているのは、僕がただ愚かな存在なだけです。それ以上でも、それ以下でもありません」

「なんだかよくわからないわ。だけど、あなたの瞳は不思議なほど澄んでいるのね」

「ありがとうございます」



その後、そのピエロは見つかったコインを使い、町の中心で達者な芸を披露していた。その芸を見ていた一人の子どもが言う。

「ピエロさん。それいつも使ってるコインと違うね」

ピエロはその言葉に笑いながら泣くだけで、肯定も否定もしなかった。